一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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花のやけど

質問者:   一般   のりこ
登録番号1118   登録日:2006-12-05
今年の夏は猛暑でした。
花の技術員は、紫のりんどうの花が白くなったのは「やけど」による障害だと言われました。一株すべての花が同じようになって、隣の株は何ともなかったりとそれも不思議なのですが。
強い日差しにより何故花の真ん中がこのように色素が抜けてしまうのでしょうか?


http://spirit.snafkin.jp/cgi-bin/MS/ms.cgi?t=sketch&blogid=&ShowDiary_file=/aguri/1156768135
のりこ 様

 今年、リンドウの花弁の一部が白化した株が所々に出たとのことですが、これは技術員の方がおっしゃっておられるように植物組織の日焼けのように思われます。
太陽の光エネルギーを用い二酸化炭素を固定する光合成によって植物は成長しているため、当然ですが太陽光に常にさらされています。植物と同じようにヒトが裸でずっと太陽光にさらされると皮膚は日焼けによってものすごく傷むでしょう。ヒトに比べ植物はなぜ日焼けをしにくいのか、それでもどうして日焼けによる白化が生ずるのかについて、考えてみましょう。
太陽の光エネルギーが植物に含まれている(特にタンパク質に結合していない)色素に吸収されると、エネルギーを吸収した色素は酸素と反応し、活性酸素を生成します。活性酸素は反応性が高く、細胞成分を酸化分解します。色素が分解されると葉や花の白化を引き起こすことなりますが、しかし、葉の組織が白化してしまえば光合成ができなくなり、また、リンドウの花弁のきれいな青紫が消えてしまうと昆虫を呼び寄せることができず、受粉、受精がうまく進まなくなります。
植物はヒトの皮膚に比べ圧倒的に多量の色素をもっているのに、普通は、白化や日焼けしにくいのは、例えば、葉緑体のクロロフィールは光合成がうまく進行できるように、全てタンパク質に結合しているためです。もし、このクロロフィールをタンパク質からエタノールなどではずし、光をあてると活性酸素が多量に生じ、クロロフィル自身も分解されて緑色は速やかに消えてしまいます。このように植物に含まれる色素は光エネルギーを受けても、できるだけ活性酸素を生じないようになっています(活性酸素の生成抑制)。さらに、植物は活性酸素を速やかに消してしまう酵素や抗酸化成分を多量に含み、例え活性酸素が細胞内で生じても速やかに消去されるため、これによって色素を初めとする細胞成分が酸化分解されるのを抑えています(活性酸素の消去)。
リンドウの花弁の一部が白色化するのは、1)太陽光照度が高すぎる、2)活性酸素の生成抑制、3)活性酸素の消去が充分機能していない、の少なくとも3つの原因が考えられます。1)が原因であれば、遮光によって解決できる問題です。2、3)の何れか、または両方が原因である場合、これらは栽培条件によって影響を受けやすくその原因を決めるのは困難です(14種の無機元素(肥料)が適当な割合で与えられているか、潅水が適当かなど)。例えば、マグネシュウム、鉄、銅、亜鉛などが欠乏すると、2)、3)の機構が働かないことは充分に考えられます。
リンドウの花弁の白色化はある株では見られ、他の株では全く見られないようですが、このことは株ごとに、遺伝的な僅かな差があるようにも見えます。花弁の白色化の見られたリンドウの株や種子は来年度の栽培に使われない方が賢明でしょう(花の色の遺伝について、登録番号0554の回答参照)。
以上の他、花の色はいろんな条件で変化します。それらについては本質問コーナーの登録番号0358、登録番号0779、登録番号0961、登録番号0971、登録番号1062、登録番号1068の回答にありますので参考にして下さい。葉の一部が遺伝的に白色化している斑入りの葉は園芸品種に多く見られますが、これらについても、登録番号0235、登録番号0468、登録番号0729、登録番号0749の回答で議論されていますのでご覧下さい。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2012-08-25
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