一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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農耕地と植物と二酸化炭素の関係について

質問者:   一般   政本 弘光
登録番号1122   登録日:2006-12-02
他の人の質問を見て、放牧地における炭素循環の様子は理解できましたが、農耕地における炭素循環についてはどうなのでしょうか?どんな作物でも土壌呼吸による炭素の放出量の方が固定量より大きくなってしまうのでしょうか?
政本 弘光 様

登録番号0421の回答にあります、自然草原、放牧地での光合成による二酸化炭素固定量と土壌呼吸による二酸化炭素放出量との関係が、農耕地ではどのようになっているかが、ご質問の趣旨と思います。放牧地では時には土壌呼吸による二酸化炭素の放出量が、光合成量よる固定量よりも多くなることもありますが、これは牛などが牧草以外に穀類を与えられ、その排泄物の土壌微生物による分解などが加わるために、見かけ上牧草地での二酸化炭素放出量が牧草の光合成量よりも大きくなると考えられます。自然草原では同じ回答にありますように、光合成量と土壌呼吸量とは、ほぼ等しいと考えられています。

現在、農耕地での光合成による二酸化炭素吸収量は、地球の年間光合成量の約8%と見積もられています。この値は作物の種子を播いてから完熟に至るまでの全光合成量から作物自身の呼吸量を差し引いた純生産量(純光合成量)に相当します(登録番号0512の回答参照)。作物が生育している間に、どれだけ土壌の中の微生物による呼吸によって二酸化炭素が発生しているかは、作物の種類、栽培法などなど多くの条件によって大きく変動します。例えば、堆肥やわらなどを施用すれば、土壌呼吸が盛んになって、場合によっては、作物の光合成による二酸化炭素固定量よりも大きくなるかもしれません。しかし、例えそのような場合でも、これが地球環境を悪化させる大気中の二酸化炭素濃度の上昇に直接連なるわけではありません。これらのわら、堆肥の有機物は農耕地でなくとも何れどこかで、いつかは分解して二酸化炭素になるわけですから。
堆肥、わらはもともと植物光合成による二酸化炭素固定産物ですが、これらが土壌中でできるだけ長い期間留まってくれる状態、すなわち、土壌微生物で分解されにくく、二酸化炭素を放出しにくい腐植になれば、土壌改良にも有効であり、炭素を有機体の形で保持できるため、地球環境保持の上では最も好ましいと考えられます。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2012-08-25