質問者:
会社員
まっさん
登録番号1128
登録日:2006-12-11
野菜殺菌の研究を行っています。野菜の表面を殺菌することによって大部分の野菜についてはその効果が認められていますがカイワレ大根や水菜など水耕で栽培されている野菜については、殺菌後においても大腸菌群などが死滅せずに検出されてしまいます。水耕栽培ということで植物自体が軟弱のため、ちょっとしたことで傷がつき、そこに菌が多く存在していると考えていますが、植物内に菌が存在しているかどうか疑わしいところもあります。そこで、無傷の健康体の植物内部に、ウイルスではない細菌レベルの大きさの微生物が、存在しているのでしょうか。存在するとすると、その進入経路はどのようなものか教えていただきたく存じます。以上よろしくお願いいたします。
みんなのひろば
植物内部の微生物汚染について
まっさん さん:
日本植物生理学会 みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。「無傷の健康体の植物内部に」細菌が存在するかどうか、とのご質問ですが、お答えとしては「植物細胞の内部」には細菌はおりません。ただし、特殊な場合、例えば、マメ科植物の根に根粒菌が感染した場合には、細胞の内部にバクテロイドという形で存在はします。その他では、健康でない、細菌病に感染した場合で、宿主植物側が抵抗性を示さないときには、生きた宿主細胞と感染した細菌が共存する部分が出来ます。
健康な植物体の細胞内部には細菌や糸状菌などの微生物がいないので、「表面に着生」する微生物を殺菌した組織や器官切片を無菌的に培養することができるのです。
細胞培養、組織培養、器官培養などの無菌培養系は植物バイオテクノロジーの基本技術として広く利用されています。水耕栽培した作物の殺菌が出来にくい理由は分かりませんが、培養液の中にはたくさんの微生物が繁殖しており、根はその全表面が培養液と接触していますね。土壌にはたくさんの空隙があり、細菌のいる土壌粒子表面との接触は、水耕栽培に比べたら少ないことが考えられます。これらの条件の違いが、着生細菌の量に影響をおよぼしているのかもしれません。微生物と植物との関係はたいへん複雑ですが、同時にたいへん大切な関係にあります。ふつうに栽培(生育)している植物の表面には、極めてたくさんの種類の細菌類が着生しています(着生細菌あるいは付着細菌と呼ばれ、多くの研究の対象となっています)茎葉などの地上部と根の場合とで、状況は少し違いますが、植物表面は平滑でなく、表皮細胞がジグソーパズルのように凹凸を持って詰まっています。表皮細胞の細胞と細胞との境目などに着生細菌が詰まっており、ほとんどが「バイオフィルム」と言われるようなフィルム状の集団となっています。また、根や葉の表面から分泌される粘液質の中に食い込んだ形でいる場合も多く観察されています。最近の研究で、これらの着生細菌の中には、植物ホルモンを生産して植物の生長にプラスに働くもの、氷核タンパク質という氷の結晶ができる核になる特殊なタンパク質を生産して、植物表面に氷の結晶生成を促進して傷害を与えるもの、植物の分泌物を代謝して病原菌の抑制物質に変えるもの、空気中の汚染物質を分解する働きを持つものなどがあることが明らかになりつつあり、これらの着生細菌を逆に利用しようとする研究もはじまっています。どの程度の「殺菌」を目指して、「野菜殺菌」の研究をなさっておられるのか分かりませんが、研究レベルでも、野外で栽培した植物を完全殺菌して培養系に持ち込むことは至難のことです。ある研究結果では、露地栽培作物の葉の表面には、1平方センチメートルあたり、1千万から1億個の微生物が着生していると報告されているほどです。
無菌培養にする材料植物は温室や培養室などで生育させたものを使用するのがふつうです。
日本植物生理学会 みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。「無傷の健康体の植物内部に」細菌が存在するかどうか、とのご質問ですが、お答えとしては「植物細胞の内部」には細菌はおりません。ただし、特殊な場合、例えば、マメ科植物の根に根粒菌が感染した場合には、細胞の内部にバクテロイドという形で存在はします。その他では、健康でない、細菌病に感染した場合で、宿主植物側が抵抗性を示さないときには、生きた宿主細胞と感染した細菌が共存する部分が出来ます。
健康な植物体の細胞内部には細菌や糸状菌などの微生物がいないので、「表面に着生」する微生物を殺菌した組織や器官切片を無菌的に培養することができるのです。
細胞培養、組織培養、器官培養などの無菌培養系は植物バイオテクノロジーの基本技術として広く利用されています。水耕栽培した作物の殺菌が出来にくい理由は分かりませんが、培養液の中にはたくさんの微生物が繁殖しており、根はその全表面が培養液と接触していますね。土壌にはたくさんの空隙があり、細菌のいる土壌粒子表面との接触は、水耕栽培に比べたら少ないことが考えられます。これらの条件の違いが、着生細菌の量に影響をおよぼしているのかもしれません。微生物と植物との関係はたいへん複雑ですが、同時にたいへん大切な関係にあります。ふつうに栽培(生育)している植物の表面には、極めてたくさんの種類の細菌類が着生しています(着生細菌あるいは付着細菌と呼ばれ、多くの研究の対象となっています)茎葉などの地上部と根の場合とで、状況は少し違いますが、植物表面は平滑でなく、表皮細胞がジグソーパズルのように凹凸を持って詰まっています。表皮細胞の細胞と細胞との境目などに着生細菌が詰まっており、ほとんどが「バイオフィルム」と言われるようなフィルム状の集団となっています。また、根や葉の表面から分泌される粘液質の中に食い込んだ形でいる場合も多く観察されています。最近の研究で、これらの着生細菌の中には、植物ホルモンを生産して植物の生長にプラスに働くもの、氷核タンパク質という氷の結晶ができる核になる特殊なタンパク質を生産して、植物表面に氷の結晶生成を促進して傷害を与えるもの、植物の分泌物を代謝して病原菌の抑制物質に変えるもの、空気中の汚染物質を分解する働きを持つものなどがあることが明らかになりつつあり、これらの着生細菌を逆に利用しようとする研究もはじまっています。どの程度の「殺菌」を目指して、「野菜殺菌」の研究をなさっておられるのか分かりませんが、研究レベルでも、野外で栽培した植物を完全殺菌して培養系に持ち込むことは至難のことです。ある研究結果では、露地栽培作物の葉の表面には、1平方センチメートルあたり、1千万から1億個の微生物が着生していると報告されているほどです。
無菌培養にする材料植物は温室や培養室などで生育させたものを使用するのがふつうです。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2006-12-16
今関 英雅
回答日:2006-12-16