質問者:
公務員
ちくわぶ
登録番号1134
登録日:2006-12-21
「とある試験場の人から『植物生長調整剤は散布後気孔から吸収されるので、気孔が開く朝に散布するのが良い』と言われたが本当だろうか」と農家の方から相談を受けました。インターネットや各種専門書でいろいろ調べましたが確認がとれませんので、以下のことについて教えてくださいますようお願いします。みんなのひろば
外部から与えられた合成植物ホルモン剤と気孔の関係
①合成ホルモン剤(ジベレリン・サイトカイニン・オーキシンなど)は、植物に散布後、どこから吸収されるのでしょうか?本当に気孔から入るのでしょうか?それとも茎葉の表面からじんわりと浸透移行して植物体に入るのでしょうか?
②ホルモン阻害剤(わいか剤=ジベレリン阻害剤など)も同様でしょうか?
③植物生長調整剤のうち、エスレルは、加水分解してエチレンを発生させる剤ですが、剤を水に溶かした時からエチレンが発生するのでしょうか、水溶剤を茎葉に散布してから茎葉表面でエチレンを発生し、そのエチレンが植物に吸収されるのでしょうか、散布後エスレルが植物に吸収されてから植物体の中で分解されてエチレンを発生するのでしょうか、エチレン(またはエスレル?)が植物に吸収される時、①と同様どこから植物体に吸収されるのでしょうか?
あと、ばからしい質問かもしれませんが、各種資料を見たのですが答えが見つからなかったので、教えてください。
一般的な植物の場合、気孔は夜閉じてしまうとされていますが、それでは夜に呼吸して排出されるというCO2はどこから植物体外に排出されるのでしょうか?
よろしくお願いします。
ちくわぶ さん:
日本植物生理学会 みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。ご質問は標記の番号で受け付け、回答をお送りします。
農業では、いろいろな植物成長調節剤を利用して、作物の品質を向上させたり、栽培コストの低減を図ったりしていますが、その実際の施用法はなかなか難しいようです。どこから植物体内に吸収されるのかとのご質問ですが成長調節剤、成長抑制剤ともに、ほとんどは植物表面の表皮から吸収されます。実際には、水溶液として散布しますので植物表皮上に「濡れ」た状態となって表皮全体に接触するか、細かい水滴となって付着することになります。植物の表面を覆っている表皮細胞の外側はふつうクチクラという耐水性の物質が沈着しています。しかし、水溶液内に溶けている物質(溶質)はクチクラを通しても細胞壁の中へゆっくりと透過していきます。細胞壁はお互いにつながっていますので、表皮細胞の細胞壁内に入った物質は、奥にある葉肉細胞や皮層などの柔細胞の細胞壁にも浸透していきます。細胞壁内の物質は細胞膜を通過して細胞内に吸収されます。植物の隣り合った細胞の細胞質同士は、細胞質連絡という物質の通り道でつながっています。このように、外から与えた植物成長調節物質のような低分子物質は、細胞壁がつながったチャンネル(アポプラストといいます)や生きた細胞質同士がつながったチャンネル(シンプラストといいます)を通して近距離移動するばかりでなく、植物体の通道器官である篩部、木部(道管部)を通しても遠距離移動をして、効果を現すと考えられます。ただし、オーキシンの移動については特別な仕組みが働いています(0995をご参照下さい)。
次にエスレルに関するご質問ですが、エスレルは強い酸性物質で、酸性状態で安定ですが、水で希釈して酸性度が低下する(pH5以上)と自動的に分解しはじめてエチレンを発生します。水溶液として散布されたエスレルの大部分は植物体表面でエチレンに分解されますが、一部は植物に吸収されます。植物体表面で生じたエチレンは表皮から吸収されて生理的効果を現します。吸収されたエスレルが組織内を移動すること、移動した先でゆっくりとエチレンに分解することもたくさんの作物で明らかにされていますが、吸収され易さ、組織内での分解の速さなどは、植物種によって大きく異なっています。
このように、植物成長調節物質などの吸収に、気孔が積極的な働きをしていることは考えられません。気孔は主に、気体の交換を、特に光合成に必要な大量の二酸化炭素の吸収と光合成の結果生じた酸素の排出を「効率よく」行う装置となっています。二酸化炭素も酸素も少量ですが表皮表面から吸収されたり、排出されたりしていますので、気孔が閉じていても呼吸に必要な気体交換は行われています。
日本植物生理学会 みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。ご質問は標記の番号で受け付け、回答をお送りします。
農業では、いろいろな植物成長調節剤を利用して、作物の品質を向上させたり、栽培コストの低減を図ったりしていますが、その実際の施用法はなかなか難しいようです。どこから植物体内に吸収されるのかとのご質問ですが成長調節剤、成長抑制剤ともに、ほとんどは植物表面の表皮から吸収されます。実際には、水溶液として散布しますので植物表皮上に「濡れ」た状態となって表皮全体に接触するか、細かい水滴となって付着することになります。植物の表面を覆っている表皮細胞の外側はふつうクチクラという耐水性の物質が沈着しています。しかし、水溶液内に溶けている物質(溶質)はクチクラを通しても細胞壁の中へゆっくりと透過していきます。細胞壁はお互いにつながっていますので、表皮細胞の細胞壁内に入った物質は、奥にある葉肉細胞や皮層などの柔細胞の細胞壁にも浸透していきます。細胞壁内の物質は細胞膜を通過して細胞内に吸収されます。植物の隣り合った細胞の細胞質同士は、細胞質連絡という物質の通り道でつながっています。このように、外から与えた植物成長調節物質のような低分子物質は、細胞壁がつながったチャンネル(アポプラストといいます)や生きた細胞質同士がつながったチャンネル(シンプラストといいます)を通して近距離移動するばかりでなく、植物体の通道器官である篩部、木部(道管部)を通しても遠距離移動をして、効果を現すと考えられます。ただし、オーキシンの移動については特別な仕組みが働いています(0995をご参照下さい)。
次にエスレルに関するご質問ですが、エスレルは強い酸性物質で、酸性状態で安定ですが、水で希釈して酸性度が低下する(pH5以上)と自動的に分解しはじめてエチレンを発生します。水溶液として散布されたエスレルの大部分は植物体表面でエチレンに分解されますが、一部は植物に吸収されます。植物体表面で生じたエチレンは表皮から吸収されて生理的効果を現します。吸収されたエスレルが組織内を移動すること、移動した先でゆっくりとエチレンに分解することもたくさんの作物で明らかにされていますが、吸収され易さ、組織内での分解の速さなどは、植物種によって大きく異なっています。
このように、植物成長調節物質などの吸収に、気孔が積極的な働きをしていることは考えられません。気孔は主に、気体の交換を、特に光合成に必要な大量の二酸化炭素の吸収と光合成の結果生じた酸素の排出を「効率よく」行う装置となっています。二酸化炭素も酸素も少量ですが表皮表面から吸収されたり、排出されたりしていますので、気孔が閉じていても呼吸に必要な気体交換は行われています。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2006-12-25
今関 英雅
回答日:2006-12-25