一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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果実の光合成

質問者:   教員   einstein
登録番号1149   登録日:2007-01-09
気孔は葉以外の花や果実などにも存在するようですが、緑色をした果実である
キュウリやピーマンなどは光合成を行っているのでしょうか。緑をしていても光合成は行わない果実もあるのでしょうか?またりんごのように青い状態から赤く色づくと光合成の速度は変化するのでしょうか?
einsteinさま

植物で緑色をしている組織はクロロフィルを含み、その組織の細胞は必ず葉緑体を含んでいます。細胞にクロロフィルだけが遊離の状態で存在することはなく、緑色の細胞には必ず葉緑体があり、光合成によって二酸化炭素を固定しています。
葉緑体の中でクロロフィルは光のエネルギーを生化学エネルギー(ATP, NADPH)に変換できるように数種類の特定のタンパク質に結合しています。クロロフィルがタンパク質に結合していない状態で太陽光によって照射されると、活性酸素(励起一重項酸素分子)が生じ、この活性酸素によってクロロフィルは速やかに酸化分解を受けてしまいます(自己光増感酸化反応)。従って、細胞の中でクロロフィルの合成とそれの受け取り手となるタンパク質の合成とは、同調的に進行し、合成されたクロロフィルは直ちにタンパク質に結合し、タンパク質に結合していないクロロフィルが少しでも蓄積しないようにしています。クロロフィルの合成、分解の中間体もクロロフィルと同様、光によって活性酸素を生じやすいため、クロロフィルの合成、分解反応は中間体が蓄積しないように速い速度で進行しています。合成、分解のどこかの段階の酵素に欠損のある変異種は、クロロフィルの合成、分解の中間体が蓄積するため、弱い光の下でしか生育できません。
以上のことから、植物の細胞、組織で緑色にみえるところには必ず葉緑体があり、大なり小なり光合成をして二酸化炭素を固定していると考えてよいでしょう。葉緑体をもつ細胞が例えば表皮細胞のみに限られているような場合、気孔をもっていませんが、ご質問にありますように葉緑体をもつ細胞が何層にもなっている場合は、葉以外の組織でも気孔をもっています。
トマト、リンゴ、バナナ、ミカンなどでの果物ではその成熟に伴って、緑色から赤や黄色に変化します。トマトでは葉緑体のクロロフィルが分解し、そこにリコペンが合成、蓄積し、葉緑体が他の形の色素体であるクロモプラスト変換します。植物細胞中の色素体の相互変換については、質問登録番号0397に対する回答をご覧下さい。クロロフィルの消失に伴って光合成は低下しますが、それまで葉緑体の光合成産物は、果実の成分の蓄積に寄与していると考えられます。
これらの果物の成熟はエチレンによって誘導されます。エチレンの植物ホルモン作用については、本質問コーナーのエチレンで検索していただければ、エチレンの植物に対する多くの作用が解説されています。日本では輸入された硬い緑色バナナは、エチレン処理によって黄色の食べられる形になってから市販されています。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2007-01-30
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