一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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カタツムリの摂食をクローバはシアン化合物防いでいるのか

質問者:   教員   takeyon
登録番号1156   登録日:2007-01-14
帰化植物について調べています。シロツメグサをネット上で調べていると、「青酸を発生させる化合物を含み、それによって放牧牛などが中毒を起こすことがある。ヨーロッパで冬が寒い地域には青酸を持たない個体が圧倒的に多く、逆に冬が暖かい地域では殆どの個体に青酸がある。これにはカタツムリが関係しており、冬暖かい地方ではカタツムリが冬眠しないため、その防御として青酸が産出され、一方、寒冷地ではクローバーは早春に新芽を出し、カタツムリが冬眠から覚めた頃には新芽が充分に生育して、少々の食害は致命傷にならない。」と記載されたページが見つかりました。マメ科植物が青酸化合物を産生し、それを食べた放牧牛が中毒を起こすことは知っていましたが、カタツムリと関係は知りませんでした。この記述は本当のことなのでしょうか。お教え頂ければ幸いです。西村武司
takeyon さん:

日本植物生理学会 みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。ご質問は標記の番号で受け付け、回答をお送りします。
シロツメクサ(ホワイトクローバー)にはリナマリンとロタウストラリンという青酸発生配糖体が含まれています。これらは、それぞれアミノ酸であるバリンとイソロイシンから生合成されます。シロツメクサは牧草ですが、問題となる点は、組織を傷つけたときに青酸を発生するかどうかです。シロツメクサでは、青酸配糖体(リナマリンとロタウストラリン)の生合成と配糖体を加水分解して青酸を発生する加水分解酵素(リナマラーゼ)の合成は、お互いに連鎖していない別々の優性遺伝子によって支配されており、前者はAc、後者はLiと表記されています。シロツメクサにはこれらの遺伝子に変異をもつものが多く、表現形質として結果的にAc//Li, Ac//li, ac//Li, ac//li (Ac、Liはそれぞれ青酸配糖体を合成する、加水分解できる表現形質を、ac, liはそれぞれ青酸配糖体を合成できない、加水分解できない表現形質を表します)の4種類の形質をもつものがあります。組織に傷を着けたときに、Ac//Liは青酸を発生しますが、残りの3種は発生しません(Ac//liは青酸配糖体をもつが加水分解できない、ac//Liは加水分解できるが青酸配糖体を含まない、ac//liは青酸配糖体をもたず加水分解もできない)。
さて、青酸発生配糖体をもつ植物は極めて多岐にわたりますが、その意義については一般に、昆虫類を含めた動物の食害から、自身を守る防御手段と考えられています。
シロツメクサの生態学的研究によれば、カタツムリや野ネズミなどは、青酸発生系統よりも非青酸発生系統(青酸配糖体を含む場合もある)を好む傾向があるとされています。アジサイも青酸発生植物の一つです。アジサイの葉にカタツムリが這う構図は梅雨時の風物詩のように見かけますが、カタツムリはアジサイの葉を食べないことが明らかにされています。しかし、青酸発生植物を食べる昆虫や動物もいますので、絶対的な防御手段とは言えません。
温暖な地方と寒冷地での比較に関する研究を見つけることができませんでしたが、シロツメクサでは、生育高度と非青酸発生系統の分布との間には、正の相関があることが指摘されています。しかし、この相関が、高地(またはその低温)のために食害動物が少ないことによるのかどうかは、はっきりしないようです。一方で、青酸発生系統は低温や乾燥に耐性が低いことも指摘されています。このような理由で、ヨーロッパでの温暖地/寒冷地間の分布の違いありそうな話ではあります。カタツムリも食害動物の一つですが、その冬眠の有無との関連を主な理由にあげるのは「うがちすぎ」の感を免れません。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2007-01-18
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