一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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CO2の固定度

質問者:   会社員   コスモス
登録番号1157   登録日:2007-01-16
地球温暖化が気になっています。個人的にも生活面でCO2削減に向けて出来るだけのことをしているのですが、自然環境面ではどうなのか教えて頂ければと思い、質問しました。
1.たとえば森林等の杉の木でCO2の年間固定量(純粋生産量)は5.3kg/m2と聞いていますが、海水中の海藻等はどうなのでしょうか。
よくCO2が海水中に吸収されると聞いていますが、それを海藻が吸収し、その巡環でCO2が吸収されればCO2削減に繋がるのではないかと思います。
2.上記に関連するのですが、また少し質問の分野がずれるかもしれませんが、海水に吸収されるCO2の量というのは限度(飽和状態)があるのでしょうか。
コスモス 様

ご質問をありがとうございました。
この問題には、神戸大学の内海域環境教育研究センターで藻類の光合成について研究されている村上明男先生が詳しく回答して下さいました。ご参考にして下さい。

暖冬に伴う様々なニュース記事や地球温暖化の脅威を唱えているアメリカ元副大統領のドキュメンタリー映画など、新年になってからも地球温暖化は特に注目されている話題です。光合成による二酸化炭素の固定という点では植物生理学も関係していますが、地球温暖化の実体や今後の推移、そして対策については未知のことが多く、現在日本も含め世界各国で様々な調査研究が行われています。

さて質問1ですが、地球表面積の約7割を占める海洋は地形、水深、海流、緯度などにより多様な環境が形成され、藻類を始めとする生物が住み分けています。従って杉林のような均質な人工林とは異なり、海洋生物による二酸化炭素固定量(一次生産量)を正確に測定することはかなり困難です。特に大型の海藻が生育する岩礁性の沿岸海域では海藻の多様性や季節消長などの複雑な要因も重なり、また調査の困難さも伴うため、きちんとしたデータは少ないのが現状です。いくつかの海洋生物学の教科書などを見ると、サンゴ礁や栄養塩が豊富な沿岸域での二酸化炭素固定量として500〜1000gC/m2/年の値(農地や熱帯雨林に相当)が掲載されています。一方、海洋の大部分を占める貧栄養の外洋域では、砂漠と同レベルの約50gC/m2/年の低い値です。しかし、外洋において水深50〜100m付近にはこれまで観察できなかった1ミクロン以下の小さな藻類(ピコプランクトン)が大量に生存することが明らかになり、外洋域の二酸化炭素固定量は増大するものと思われます。一方、人工衛生に搭載した特殊セン
サーで藻類がもつクロロフィルの量を計測することで全海洋の一次生産量やその季節変化をより正確に推計する研究も進んでいます。最近の見積もりでは、陸上と海洋の一次生産量はほぼ同じであると考えられています。

質問2は高校の化学の教科書に出てくる問題です。溶質の溶解度には必ず「限度」があります。海水はもちろんのこと、溶媒の種類、溶液の温度や圧力でも溶解度は大きく変わります。この質問に関連して、海水に溶け込む二酸化炭素の増加に伴い海水のpHが下がる予測結果が最近になって明らかになり、地球温暖化とは別の重要な課題として「海洋酸性化」が登場してきました。世界の海洋には造礁サンゴをはじめとする炭酸カルシウム(石灰)の骨格や殻をもった海洋生物が豊富に存在しますが、酸性化に伴いこれらの生物のもつ石灰成分が溶け出すなど海洋の生態系が大きく変貌する事態が懸念されています。

村上 明男(神戸大学・内海域環境教育研究センター)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤公行
回答日:2007-01-30
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