一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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染色体の数・大きさ

質問者:   大学生   ちぃ
登録番号1161   登録日:2007-01-22
課題でトウモロコシ・イネ・コムギの染色体のスケッチを描きました。でもその植物によって染色体の数や大きさが違います。染色体の数や大きさが違ったら当然DNA量も変わってきますよね?同じ植物なのになぜこのような事がおきるのですか?
ちぃ さん:

生物の進化は、染色体の進化の結果とも言えるものです。遺伝、進化をご専門に研究をされている国立遺伝学研究所の倉田 のり先生から次のようなご説明をいただきました。今地球上にいるたくさんの生物種は、長い時間にわたる染色体の変化で生まれてきたものです。すべての生物種が大変貴重なものであることを噛みしめて下さい。

科学の答えの常として「なぜ Why」に答えることはほとんどの場合不可能です。例えば、なぜ宇宙ができたのか、なぜヒトという生物が出現したのか、という問いに答えるのは無謀というものです。しかし、科学は「どのように How」という問いを解くことは得意です。その事を目的に発展している学問だともいえるわけです。さて、質問のお答えです。ですから、なぜにはお答えできませんが、「どのように」について少しお話しします。
イネのDNA量は400 Mb (4億塩基対)でトウモロコシではその約8倍、小麦は40倍ほどです。
最近の研究で、イネもシロイヌナズナも遠い昔、まだイネとトウモロコシ、シロイヌナズナとアブラナが進化して分かれる前に、ゲノム全体が倍加したことがわかってきました。さらにこれらのゲノムは、染色体の断片がいろいろに異なる組み合わせで、イネ、トウモロコシ、コムギとして進化しました。トウモロコシは独自に進化した後、さらにもう一度ゲノム全体が2倍になり、大きくなりました。さらにさらに、トウモロコシやコムギでは、動原体の周りに多量の動く遺伝子(トランスポゾンやレトロトランスポゾン)が長年かけて蓄積され、独自の大きな染色体が形成されました。
トウモロコシやコムギが、遺伝子レベルではほとんどイネと相同のセットで構成されているにもかかわらず、このような大きな染色体を持っているのは、遺伝子領域以外の部分(前述の動原体の周りなど)に、ほとんど機能しない多量のDNA(ジャンクDNAと呼ぶ人もいます)が蓄積した結果と言えます。また、コムギのゲノムは、7本の染色体が3組組合わさった、異質6倍体として構成されていて、ここでもゲノムが3倍重ね合わさって、新たな植物が進化して来たわけです。過去に起ったと推測できる現象を重ねて行くと、そういう「どのように」が見えてきます。植物に限らず、多くの動物でも、生物の染色体を構成するゲノムは、ほとんどが、ゲノムの全体あるいは部分の重複とトランスポゾンの蓄積、およびその後の部分的脱落の現象が重なり合って、現在の染色体が構成されていると考えられるに至っています。その結果、生物種毎に大きさも数も異なる染色体が残っているわけです。イネがイネ、トウモロコシがトウモロコシとして現在存在しているのは、進化的には、いろいろな時に起った多くの変異の中で、たまたま生じた染色体の組み合わせや変化が、他のものより生存環境に適合した、という結果に過ぎません。

倉田 のり(国立遺伝学研究所 植物遺伝研究室)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2007-01-30