質問者:
会社員
もうすぐ32歳
登録番号1165
登録日:2007-01-24
植物の葉の形成に影響するのは、葉が形成され始めるまでの日照条件・土中の養分(他にもいろいろあると思いますが)なのでしょうか。それとも葉が形成され始めてからのそれらなのでしょうか。例えば日照条件等、ある植物にとって適していない環境下にあり新葉が形成され始めたとします。そのままだと徒長した葉が出来上がりますが、好条件下にその時点でしてやったら徒長は軽減されるのでしょうか。また悪い条件下と、良い条件下での葉の細胞(組織?)の出来上がりといいますか、葉の中の違いはどんなことがあるのですか。みんなのひろば
葉の形成に影響するものは
宜しくお願いします。
日本植物生理学会 みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。葉の出来方をいろいろな角度から研究を進められている東京大学の塚谷裕一先生にうかがいました。植物は環境の変化に大変敏感に反応して、形や働きを変え、不利な環境にも耐え抜いて生きようとしているようですね。
「もうすぐ32歳」様
ご質問ありがとうございます。葉の形成ですね。最初に、「葉の形成に影響するのは、葉が形成され始めるまでの」条件なのか、それ以降の条件なのか、という点についてお答えします。これは、両方です。ご質問で例に挙げられている光の不足という環境に関しては、形成されている間、常に影響があります。ですから、明るい光の下で、しっかりした形の葉がほぼできあがっていたとしても、それを暗いところに置けば、柄の部分が徒長してしまいます。また逆に、暗いところで形成されかけていた、色白でひょろ長い葉も、日の光の元に移して1時間もすれば緑となり、成長も止まります。新しいできかけの葉も、それぞれほぼ同時に、新しい環境に応じた方向に形作りの進路を変更します。
一方、明るいところで作られる葉の間でも、光の強さに応じて、こんな現象が起こることが知られています。同じ植物個体であっても、弱めの光の下で育てると、葉は薄くなる傾向があり、強い光を当てて育てると、葉は厚くなる傾向があるのです。前者のタイプの葉を陰葉、後者を陽葉といいます。これから作られる葉が、陽葉になるのか陰葉になるのかは、実は、それまでに作った葉が、どれだけの強さの光を浴びているかで決まります。つまり、先に完成して光合成を始めた葉の指令によって、次にできる葉を厚くするか薄くするかが決まるというわけです。これは、枝ごとにそれぞれ指令がなされるようで、そのため一本の木であっても、日陰側の葉と日向にできる葉とでは厚さが違う、といった現象が起きるわけです。
こういった光環境の他、ご指摘の土壌中の栄養分の多寡(特に窒素分)や、空気中の二酸化炭素の濃度、水分環境なども、葉の形成に影響します。その影響の仕方は、形成中いつも影響し続けるものから、形成前に予めほぼ決まってしまうものまで、光と同様に、いろいろです。植物にとって、葉がどういう構造、形であるかは、光合成の効率に大きく響く要素であるため、何重にも制御がかかっているというわけでしょう。
さて次に、中身がどうなっているかに移りましょう。上述の通り、葉は、全体のサイズや形も環境によって大きく変化します。その際、組織の様子もずいぶん変化します。気孔の数は、水環境や二酸化炭素濃度に応じて変化します。顕著なのは、柵状組織の形ですね。ご存じのように、光は葉の表側から射すのが普通です。その光を最初に受け止め、一番光合成の場として活躍するのは、柵状組織なので、光環境が変われば、柵状組織の形も大きく変化します。例えば私たちが使っている実験植物「シロイヌナズナ」の場合、蛍光灯の弱い光の下では、柵状組織は1層しかなく、しかも細胞は丸くしまりのない形をしています。ところがこれを野外あるいは特に強い光の下で育てると、柵状組織は2-3層にまで増えるだけでなく、細胞1つ1つが、よく生物の教科書に図として描かれているような、円筒形の、厚み方向に特に長い形の細胞になります。まるで別の種類かのような違いにまで至るわけです。
こんなところで、お答えになっていますでしょうか。また何かあればご質問下さい。
塚谷 裕一(東京大学大学院理学系研究科)
「もうすぐ32歳」様
ご質問ありがとうございます。葉の形成ですね。最初に、「葉の形成に影響するのは、葉が形成され始めるまでの」条件なのか、それ以降の条件なのか、という点についてお答えします。これは、両方です。ご質問で例に挙げられている光の不足という環境に関しては、形成されている間、常に影響があります。ですから、明るい光の下で、しっかりした形の葉がほぼできあがっていたとしても、それを暗いところに置けば、柄の部分が徒長してしまいます。また逆に、暗いところで形成されかけていた、色白でひょろ長い葉も、日の光の元に移して1時間もすれば緑となり、成長も止まります。新しいできかけの葉も、それぞれほぼ同時に、新しい環境に応じた方向に形作りの進路を変更します。
一方、明るいところで作られる葉の間でも、光の強さに応じて、こんな現象が起こることが知られています。同じ植物個体であっても、弱めの光の下で育てると、葉は薄くなる傾向があり、強い光を当てて育てると、葉は厚くなる傾向があるのです。前者のタイプの葉を陰葉、後者を陽葉といいます。これから作られる葉が、陽葉になるのか陰葉になるのかは、実は、それまでに作った葉が、どれだけの強さの光を浴びているかで決まります。つまり、先に完成して光合成を始めた葉の指令によって、次にできる葉を厚くするか薄くするかが決まるというわけです。これは、枝ごとにそれぞれ指令がなされるようで、そのため一本の木であっても、日陰側の葉と日向にできる葉とでは厚さが違う、といった現象が起きるわけです。
こういった光環境の他、ご指摘の土壌中の栄養分の多寡(特に窒素分)や、空気中の二酸化炭素の濃度、水分環境なども、葉の形成に影響します。その影響の仕方は、形成中いつも影響し続けるものから、形成前に予めほぼ決まってしまうものまで、光と同様に、いろいろです。植物にとって、葉がどういう構造、形であるかは、光合成の効率に大きく響く要素であるため、何重にも制御がかかっているというわけでしょう。
さて次に、中身がどうなっているかに移りましょう。上述の通り、葉は、全体のサイズや形も環境によって大きく変化します。その際、組織の様子もずいぶん変化します。気孔の数は、水環境や二酸化炭素濃度に応じて変化します。顕著なのは、柵状組織の形ですね。ご存じのように、光は葉の表側から射すのが普通です。その光を最初に受け止め、一番光合成の場として活躍するのは、柵状組織なので、光環境が変われば、柵状組織の形も大きく変化します。例えば私たちが使っている実験植物「シロイヌナズナ」の場合、蛍光灯の弱い光の下では、柵状組織は1層しかなく、しかも細胞は丸くしまりのない形をしています。ところがこれを野外あるいは特に強い光の下で育てると、柵状組織は2-3層にまで増えるだけでなく、細胞1つ1つが、よく生物の教科書に図として描かれているような、円筒形の、厚み方向に特に長い形の細胞になります。まるで別の種類かのような違いにまで至るわけです。
こんなところで、お答えになっていますでしょうか。また何かあればご質問下さい。
塚谷 裕一(東京大学大学院理学系研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2007-02-05
今関 英雅
回答日:2007-02-05