一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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脂溶性の赤色色素

質問者:   高校生   yoshio
登録番号1167   登録日:2007-01-25
先日シダ植物の葉の色素を薄層クロマトグラフィーで分離したところ、赤色の色素が出てきたのですが、何という色素なのか分かりません。調べたところ水溶性の色素ではないよです。
展開には石油エーテル・アセトンを混合した展開液を用いました。
どのような色素なのか教えていただけませんでしょうか。
yoshioさま

シダを含め光合成をしている葉の組織には葉緑体があり、陸上の植物では太陽光エネルギーによって二酸化炭素を固定するために、葉緑体に緑色のクロロフィールと黄・橙色のカロテノイド(カロテンとキサントフィール)が必ず含まれています(藻類ではクロロフィールとカロテノイド以外にそれぞれの種特有の別の色素も光合成に関与しています)。
シダ葉の色素の薄層クロマトグラフィーによる分離のときに、葉緑体に由来する緑色のバンド(クロロフィール)と黄色・橙色のバンド(カロテノイド)は見られたと思います。この他に、赤色のバンドが見られたとのことですが、この赤色バンドがどのような色素であるかを決めるのは、なかなか難しい問題です。薄層クロマトグラフィーの時にスポットしたシダの試料はどのような溶媒で抽出されたかによりますが、水ではなくアセトンまたはエタノールなど有機溶媒で抽出されたとして考えて見ましょう。
植物が赤い色を示す場合、アントシアン(リンゴの果実、ウバメガシの春の新芽などの色素)を含んでいることが多いのですが、アントシアンは水溶性で、細胞内では主に液胞に局在しています。薄層クロマトグラフィーで石油エーテル・アセトン混合液によって展開したとき、赤色のバンドがスポットしたところからほとんど移動していない位置にあれば、アントシアンであるかもしれません。シダの葉を水だけで抽出して薄層クロマトグラフィーをした場合と比較してみて下さい。
しかし、薄層クロマトグラフィーのとき赤色のバンドが展開溶媒の先端に近い位置に見られたとすれば、水溶性のアントシアニンである可能性は全くありません。有機溶媒に溶けやすいカロテノイドの一種であるリコペン(トマト果実の色素)は赤色であるため、シダにリコペンがあるかもしれません。リコペンは葉緑体にはありませんが、細胞内で葉緑体の仲間であり相互に変換できる色素体に局在しています。
これまでの結果から推定できることは以上の程度ですが、実験に用いたシダに新しい色素が含まれている可能性を追求するため、用いたシダの種を図鑑で同定し、葉にもしも胞子がついている場合は葉の組織と別に分けて調べてください。また、実験に用いたシダの採取時期、採取場所(太陽光をどれだけ浴びているか)なども記録するようにして下さい。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2007-02-05
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