一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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クスノキの葉に、他の植物の発芽抑制をする働きがあるか?

質問者:   一般   kan
登録番号1171   登録日:2007-01-26
むかし、クスノキの葉に、特別な働きがあって、「古代種子を運ぶとき楠の葉っぱを種子の上に撒いて運んだ。」と何かで読んだ様な気がします。
楠の葉っぱが積もった様な場所では、植物がまばらな様な気もします。
本当のところ、楠の葉は、他の植物の発芽抑制をする働きがあるのでしょうか?
kanさま

クスノキの葉をちぎって臭いをかぐと樟脳の香りがすることに気がつかれると思いますが、樟脳はクスノキの葉ばかりでなく、材部にも多量含まれています。樟脳の化学構造が決定され化学合成ができる様になるまで、日本を含めアジアに多いクスノキの材部を水蒸気蒸留して樟脳を生産していました。樟脳は室温でゆっくりと昇華し殺虫力があるため、特に衣類の防虫剤として広く用いられ、また、戦前には広く用いられたセルロイドの原料の一つでした。しかし、樟脳の合成法が開発され、現在、樟脳はクスノキから生産されなくなっています。
クスノキには防虫作用のある樟脳が含まれていることから、ご質問にある種子を運ぶときクスノキの葉をまいておくと安全に運べるのは、恐らく、運んでいる間に種子が虫によって食べられなくなるためでしょう。クスノキはヒトの衣類を守るために樟脳を合成しているわけではなく、これを合成することによって自分の体が昆虫、鳥、哺乳動物によって食べられるのを防ぎ、さらに、カビ、細菌による感染からも防いでいると考えられます。その性質をうまく利用することを、古代の人が長い間の経験から見出したと思われます。
樟脳が植物の発芽に影響があるかどうかについて、手元の本では見つかりませんでした。これは簡単にテストできることですから植木鉢に覆いをして樟脳のある、なしで発芽率を調べて見られてはいかがでしょうか。クスノキの生えているところに下草が少ないのは樟脳がクスノキ以外の植物の発芽、生育を抑制しているのか、または、クスノキが樟脳以外の発芽、生育を抑制する化合物を合成しているのかわかりません。この様に植物が合成した化合物が、他の種の植物、動物、微生物などの生育に影響するのを他感作用(アレロパシー)とよんでいますが、これまでに多くの化合物が同定されています。例えば、クルミの木の周りに下草が少ないのはクルミがジュグロンを合成しているためです。この様な植物のアレロパシー化合物は農業に大きく関与していますが、雑草の生育を抑制する化合物を合成する機能を、例えば、イネがもつようにできれば除草剤なしでもイネを生育させることができ、そのような研究の完成を期待したいと思います。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2007-02-05