一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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植物プランクトンのクリーニング

質問者:   会社員   Kケンジ
登録番号1173   登録日:2007-01-29
はじめまして。あるHPで植物プランクトン(珪藻)の顕微鏡観察する際のクリーニング法として次亜塩素系漂白剤での処理を見ました。次亜塩素酸ナトリウムにより細胞壁や細胞膜が分解して骨格(SiO2分)のみ残るのでしょうか?更に原形質も分解されるのでしょうか?ご教授頂けませんでしょうか?
Kケンジ さま

珪藻の顕微鏡観察のとき、次亜塩素酸処理が珪藻の何を分解しているか?のご質問について、これ迄、海産藻類の分類や生態について研究を続けてこられた福山大学・生命工学部・海洋生物工学科の山岸 幸正 先生にお尋ねいたしましたところ、次のような詳しい解説を頂きましたのでご覧下さい。

珪藻の細胞の外側には被殻とよばれる珪酸質の透明な殻が覆っており、この被殻の形や模様は分類形質として重要視されています。珪藻の被殻は、おおざっぱに言うと少しだけ大きさの違う上下2つの被殻がちょうど弁当箱のようにあわさっている構造をとっています。2つの被殻が重なっている側面には帯片とよばれる帯状の殻がとりまいています。
細胞はこの被殻の入れ物の中にぴったりとおさまっています。なにかの拍子で2つの被殻の連結がはずれてしまうと、中からプロトプラストのような丸い細胞が飛び出してしまうことがあります。被殻は珪藻の細胞壁と言われることもありますが、陸上植物の細胞壁はセルロースやヘミセルロースなどの多糖類、リグニンで構成されているのに対し、珪藻の被殻は珪酸質いわばガラス質でできており、異なるものです。珪藻は多糖類の細胞壁はもっていません。

さて、珪藻を分類するためには被殻の模様を詳しく観察する必要がありますが、珪藻の細胞内部には葉緑体や油滴などが存在するためそのまま観察しても被殻の模様がはっきり見えません。そのため、被殻以外の細胞成分を取り除くための処理(クリーニング)を行う必要があります。そのうえで、残った被殻だけを顕微鏡で観察するわけです。
次亜塩素酸処理もクリーニングのための方法のひとつです。この方法の原理は、次亜塩素酸の強い酸化力を利用して細胞内に含まれている葉緑体、原形質、油滴などをはじめとする有機物を酸化分解して除き、次亜塩素酸によって分解されない被殻のみを得るというものです。珪藻では次亜塩素酸処理により2つの被殻の連結がはずれ、内容物が除かれやすくなります。
ただし実際に行われている次亜塩素酸を用いたクリーニング法では、細胞成分が被殻からは除かれるものの処理液中に分解しきれない細胞成分の粒子が残ってしまうため、研究用ではなく簡便法として用いられているようです。実際のクリーニングの方法については東京学芸大学の真山茂樹氏のホームページ「珪藻の世界」(http://www.u-gakugei.ac.jp/~mayama/diatoms/Diatom.htm)に、次亜塩素酸を用いる方法を含め、さまざまなクリーニング法が紹介されていますので参考にして下さい。

山岸 幸正(福山大学生命工学部・海洋生物工学科)
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2007-02-05
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