質問者:
会社員
カナトラ
登録番号1176
登録日:2007-01-30
祖父の家に蘭の鉢植えがたくさんあるのですが、蘭は花もちがすごい良いことを最近知りました。(胡蝶蘭とかは3ヶ月ももつとか。)蘭の花について
そこでふと思ったのですが、蘭には他の花にはない成分があってそれで花もちが良くなっているのでしょうか?
それとも他の花と違うメカニズムがあるのでしょうか?
教えていただければと思います。
よろしくおねがいします。
カナトラ様
花の寿命は興味ある問題ですね。イネのように開花して数分で終わってしまうもの、夜咲いて明け方には萎んでしまう月下美人。他方、数カ月も寿命のある
ランの仲間の花等があります。Pharenopsis 属(コチョウラン)のものは特に長いですね。しかし、寿命の長い花はむしろ例外で、比較的種類は少ないようです。
では、花の寿命に何故こんなに違いがあるのでしょうか。勿論生育状件にもよります。たとえば、カビなどに感染したりすると、当然寿命は縮みます。また、気温も大きな要因です。ご存知だとおもいますが、一般に気温の低い所の方が花は長持ちします。花屋さんは、冷蔵ケースに切り花を保管していますね。
これは、花に限ったことではありませんが、温度が低いほど細胞の代謝が低く抑えられるるからです。そのため、加齢が遅れるのです。Arroyo のグループはチリ中央部の野生植物の花の寿命を調査して、海抜2320mの所では平均4日だが、3550mの所では平均9日だと報告しています(1981年)。しかし、これについては別の要因も考えられます。花は受粉すると萎みます。受粉の多くは風媒と虫媒の形式をとりますが、気温の低い所では、昆虫の訪れるチャンスが少ないとしたら、受粉の確率を高めるために開花期間も長いことが考えられます。Rathcke は米国東部に生育するツツジ科の低木、Kalmia latifolia、(日本ではカルミアペパーミントともよばれているようです)の花は未受粉状態で21日も咲いているのは、他の植物の花が虫媒によって受粉が終わり、他の花との昆虫の奪い合いをすることのないよう開花期間を長くして、生殖を確保しているためだといっています(2003年)。このように、開花期間が長いのは、香りを出し、蜜を分泌して授粉者(ポリネーター)を積極的に誘う競争相手の花の受粉が終わって、競争のない状況まで待つ場合と、ポリネーターが少ないために、時間をかけてポリネーターの訪れを待つという場合があるようです。
花は生殖器官ですから、受粉すればその目的は達成され、いままで、花を維持するために費やしていたエネルギーは種子形成に振り向けられることになり、花冠等は不用となります。従って、花の ”在り方” はその植物の子孫の生き残りのための strategy を表しているともいえるでしょう。その”在り方”はそれぞれの植物が長い進化の過程で適応的に作り上げてきたものですから、様々な様式があります。.開花期間の長さもその一つと考えてよいでしょう。Asham とSchoenという学者は ”花はどのくらいの期間咲いていなければならないか”ということについて数学的モデルをつくり、実測によってそのモデルが支持されうることを示しました(1994年)。彼等は、花の寿命は、それぞれの植物が生育する環境への適応の結果、花を維持することに要するコストと、授粉及び受粉の割合との間でどのようにバランスを取るかによって決まるといっています。
以上の説明は進化-生態学的な観点からのものです。ところで、開花期間を積極的に維持するためになにか特別の物質が関わっているかという質問ですが、そのような物質は知られていないと思います。花が維持されるためには、花(この場合は花冠といってよいでしょう)、を構成している細胞が生きていなければなりません。そのためには、水分、栄養分の供給、呼吸によるエネルギーの絶えざる供給、植物細胞を維持するためな植物ホルモンなどが必要です。しかし、これらのコストがあればいつまでも花は生きているかというと、そういう訳にはいきません。どんな生物の細胞も時間の経過ともに加齢します。それは遺伝子によってプログラムされたことだからです。他方、花が萎むのは植物ホルモンのエチレン(気体です)の働きによります。エチレンには老化促進の作用があり、落葉、果実の熟成など植物の老化現象全般を促します。受粉が起きると、花粉の中のオーキシンという植物ホルモンが浸出して、オーキシンが雌蕊でエチレンの合成を誘導します。そのため、花は萎み始めるのです。花粉の代わりに柱頭(雌蕊の先端)にオーキシンをあたえると、受粉と同じような現象が始まります。
質問コーナーの関連する質問として1004を御覧下さい。
花の寿命は興味ある問題ですね。イネのように開花して数分で終わってしまうもの、夜咲いて明け方には萎んでしまう月下美人。他方、数カ月も寿命のある
ランの仲間の花等があります。Pharenopsis 属(コチョウラン)のものは特に長いですね。しかし、寿命の長い花はむしろ例外で、比較的種類は少ないようです。
では、花の寿命に何故こんなに違いがあるのでしょうか。勿論生育状件にもよります。たとえば、カビなどに感染したりすると、当然寿命は縮みます。また、気温も大きな要因です。ご存知だとおもいますが、一般に気温の低い所の方が花は長持ちします。花屋さんは、冷蔵ケースに切り花を保管していますね。
これは、花に限ったことではありませんが、温度が低いほど細胞の代謝が低く抑えられるるからです。そのため、加齢が遅れるのです。Arroyo のグループはチリ中央部の野生植物の花の寿命を調査して、海抜2320mの所では平均4日だが、3550mの所では平均9日だと報告しています(1981年)。しかし、これについては別の要因も考えられます。花は受粉すると萎みます。受粉の多くは風媒と虫媒の形式をとりますが、気温の低い所では、昆虫の訪れるチャンスが少ないとしたら、受粉の確率を高めるために開花期間も長いことが考えられます。Rathcke は米国東部に生育するツツジ科の低木、Kalmia latifolia、(日本ではカルミアペパーミントともよばれているようです)の花は未受粉状態で21日も咲いているのは、他の植物の花が虫媒によって受粉が終わり、他の花との昆虫の奪い合いをすることのないよう開花期間を長くして、生殖を確保しているためだといっています(2003年)。このように、開花期間が長いのは、香りを出し、蜜を分泌して授粉者(ポリネーター)を積極的に誘う競争相手の花の受粉が終わって、競争のない状況まで待つ場合と、ポリネーターが少ないために、時間をかけてポリネーターの訪れを待つという場合があるようです。
花は生殖器官ですから、受粉すればその目的は達成され、いままで、花を維持するために費やしていたエネルギーは種子形成に振り向けられることになり、花冠等は不用となります。従って、花の ”在り方” はその植物の子孫の生き残りのための strategy を表しているともいえるでしょう。その”在り方”はそれぞれの植物が長い進化の過程で適応的に作り上げてきたものですから、様々な様式があります。.開花期間の長さもその一つと考えてよいでしょう。Asham とSchoenという学者は ”花はどのくらいの期間咲いていなければならないか”ということについて数学的モデルをつくり、実測によってそのモデルが支持されうることを示しました(1994年)。彼等は、花の寿命は、それぞれの植物が生育する環境への適応の結果、花を維持することに要するコストと、授粉及び受粉の割合との間でどのようにバランスを取るかによって決まるといっています。
以上の説明は進化-生態学的な観点からのものです。ところで、開花期間を積極的に維持するためになにか特別の物質が関わっているかという質問ですが、そのような物質は知られていないと思います。花が維持されるためには、花(この場合は花冠といってよいでしょう)、を構成している細胞が生きていなければなりません。そのためには、水分、栄養分の供給、呼吸によるエネルギーの絶えざる供給、植物細胞を維持するためな植物ホルモンなどが必要です。しかし、これらのコストがあればいつまでも花は生きているかというと、そういう訳にはいきません。どんな生物の細胞も時間の経過ともに加齢します。それは遺伝子によってプログラムされたことだからです。他方、花が萎むのは植物ホルモンのエチレン(気体です)の働きによります。エチレンには老化促進の作用があり、落葉、果実の熟成など植物の老化現象全般を促します。受粉が起きると、花粉の中のオーキシンという植物ホルモンが浸出して、オーキシンが雌蕊でエチレンの合成を誘導します。そのため、花は萎み始めるのです。花粉の代わりに柱頭(雌蕊の先端)にオーキシンをあたえると、受粉と同じような現象が始まります。
質問コーナーの関連する質問として1004を御覧下さい。
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2007-02-05
勝見 允行
回答日:2007-02-05