質問者:
教員
中島
登録番号1178
登録日:2007-02-01
仕事上、シソ科植物の葉のアントシアニンを1%メタノールを使って抽出して実験に使っていますが、参考にしている書籍に、抽出液はアントシアニンの混合物であるのでペーパークロマトグラフィーで分離精製する必要があるとの記載がありました。そこで、色々調べて、ブタノール塩酸B.Hで展開後、赤色バンドを切り取り、5%酢酸ブタノールで溶出する方法で溶液を得ましたが、展開時のクロマトグラムには、他の分離スポットはありませんでした。この方法でシソニンのみを分離したことになるのでしょうか。更にクロマトグラフィーを行って精製することが可能なら、用いるべき展開溶媒をご教示下さい。吸光度計以外に分析機器のない環境で仕事をしておりますので、その点をお含みの上、宜しくお願い致します。
みんなのひろば
アントシアニンの精製について
中島 さま
赤シソの葉からアントシアニン色素を抽出、同定する方法についてのご質問ですが、植物色素について詳細な研究を長年続けておられる、名古屋大学大学院情報科学研究科の吉田 久美 先生に、詳しい解説を頂きましたので、これを参考にアントシアニンの精製がうまくできるようお祈りしております。なお、神戸で行われた日本植物生理学会の市民講座で、吉田 久美 先生がご講演された植物色素についての内容が、間もなく、日本植物生理学会―みんなのひろば―の“植物科学のトピックス”コーナーで公開されますので、これもご覧になって植物色素についての理解を深めてください。
ご質問ありがとう存じます。
赤シソのアントシアニンの抽出と分析法についてのご質問と理解してよろしいでしょうか。1%メタノールで抽出されたとありますが、1%塩酸-メタノールの誤記ではありませんでしょうか。1%メタノール水溶液ではアントシアニンは抽出されないはずです。
赤シソの主要なアントシアニンはマロニルシソニンとよばれ、発色団のシアニジンの3位、5位にグルコース、さらに3位のグルコースの6位にp-クマル酸、5位の糖の6位にマロン酸がエステル結合した構造をしております。品種や栽培条件などにもよりますが、全アントシアニンのおよそ70%程度がマロニルシソニンと思います。これ以外に、芳香族アシル基の種類の異なるアントシアニンが数種含まれています。いずれも、マロニル基という非常に不安定なアシル基を持ち、塩酸-メタノールで抽出した液を長期間放置したり、加熱したり、濃縮しますと加水分解されてしまいます。そうすると主要アントシアニンはシソニンとなります。さらに、1%塩酸-メタノール抽出液をそのままで濃縮乾固までされますと、多分、糖もアシル基もすべて加水分解された発色団だけのシアニジンまで分解が進むかと思います。
どのような操作をなさった後、ペーパークロマトグラフィーを行はれたのかが不明のため、的確にはお答えできませんが、可能ならば、葉を凍結粉砕した後、トリフルオロ酢酸を含む50%アセトニトリル水溶液による抽出が最も適しています。これが無理であれば、少なくとも凍結粉砕した葉を塩酸-メタノールで抽出後、低温で(40℃以下)注意深く減圧濃縮し、決して乾固までさせないことです。
ペーパークロマトグラフィーの展開溶媒としては、
酢酸:塩酸:水=3:1:8
ブタノール:塩酸:水=7:2:5 などがよく用いられます。
日本語の参考書としては、
林孝三編、増訂「植物色素」、養賢堂、1988
安田齋著、増補版「花色の生理・生化学」内田老鶴圃、1993
植物色素研究会編「植物色素研究法」大阪公立大学共同出版会、2004
があります。
吉田 久美(名古屋大学大学院情報科学研究科)
赤シソの葉からアントシアニン色素を抽出、同定する方法についてのご質問ですが、植物色素について詳細な研究を長年続けておられる、名古屋大学大学院情報科学研究科の吉田 久美 先生に、詳しい解説を頂きましたので、これを参考にアントシアニンの精製がうまくできるようお祈りしております。なお、神戸で行われた日本植物生理学会の市民講座で、吉田 久美 先生がご講演された植物色素についての内容が、間もなく、日本植物生理学会―みんなのひろば―の“植物科学のトピックス”コーナーで公開されますので、これもご覧になって植物色素についての理解を深めてください。
ご質問ありがとう存じます。
赤シソのアントシアニンの抽出と分析法についてのご質問と理解してよろしいでしょうか。1%メタノールで抽出されたとありますが、1%塩酸-メタノールの誤記ではありませんでしょうか。1%メタノール水溶液ではアントシアニンは抽出されないはずです。
赤シソの主要なアントシアニンはマロニルシソニンとよばれ、発色団のシアニジンの3位、5位にグルコース、さらに3位のグルコースの6位にp-クマル酸、5位の糖の6位にマロン酸がエステル結合した構造をしております。品種や栽培条件などにもよりますが、全アントシアニンのおよそ70%程度がマロニルシソニンと思います。これ以外に、芳香族アシル基の種類の異なるアントシアニンが数種含まれています。いずれも、マロニル基という非常に不安定なアシル基を持ち、塩酸-メタノールで抽出した液を長期間放置したり、加熱したり、濃縮しますと加水分解されてしまいます。そうすると主要アントシアニンはシソニンとなります。さらに、1%塩酸-メタノール抽出液をそのままで濃縮乾固までされますと、多分、糖もアシル基もすべて加水分解された発色団だけのシアニジンまで分解が進むかと思います。
どのような操作をなさった後、ペーパークロマトグラフィーを行はれたのかが不明のため、的確にはお答えできませんが、可能ならば、葉を凍結粉砕した後、トリフルオロ酢酸を含む50%アセトニトリル水溶液による抽出が最も適しています。これが無理であれば、少なくとも凍結粉砕した葉を塩酸-メタノールで抽出後、低温で(40℃以下)注意深く減圧濃縮し、決して乾固までさせないことです。
ペーパークロマトグラフィーの展開溶媒としては、
酢酸:塩酸:水=3:1:8
ブタノール:塩酸:水=7:2:5 などがよく用いられます。
日本語の参考書としては、
林孝三編、増訂「植物色素」、養賢堂、1988
安田齋著、増補版「花色の生理・生化学」内田老鶴圃、1993
植物色素研究会編「植物色素研究法」大阪公立大学共同出版会、2004
があります。
吉田 久美(名古屋大学大学院情報科学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2007-02-19
浅田 浩二
回答日:2007-02-19