一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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桜島大根

質問者:   一般   たく
登録番号1186   登録日:2007-02-07
ニュースを見ていたら桜島大根の品種改良の話題が出てきて良い大根を育種するために高濃度の二酸化炭素中にて受精を行うことで優良な品種を育種できる可能性があると農業試験場の方が言っていましたが、どういうメカニズムなのでそうなるのでしょうか、大根に限ってのことですか?唐突な質問ですみませんがよろしくお願いします。
たく-さま

質問(登録番号1186)に対して回答いたします。回答は鹿児島大学農学部の岩井純夫先生にお願いしました。二酸化炭素の自家不和合性打破効果の発見の逸話も紹介していただきました。科学における発見には偶然が寄与することの一例ですね。ただ、そのメカニズムについては、現在の所、研究報告はないようであるとのことです。もし、そのような報告がみつかりましたら、また、お知らせしましょう。

今、日本の野菜品種の多くが、ハイブリッド品種(雑種第一代品種、F1)です。これは、種内の遺伝的にほぼ純粋な(純系といいます)異なる系統の間で雑種を作る品種改良の方法で、雑種では生育が旺盛になる(雑種強勢)あるいは生育が揃うなどの利点を生かしたものです。
ハイブリッド品種を作るためには大量の雑種種子を採らねばなりません。この時利用されるのが、自分の花粉では受精しないという自家不和合性です(質問コーナー0513、0833に詳しく解説してありますので、そちらもご覧ください)。2種類の親系統を植えておけば、自分の花粉では種子を作らず他人の花粉でしか種子を作りませんから、雑種の種子のみが出来ます。ところが、この時問題になるのが、純系の両親をどうやって作るかということです。純系を作るためには自分の花粉と自分の雌しべの間で受精をさせなければならないのに、自家不和合性が邪魔をするからです。ここで登場するのが、高濃度炭酸ガス(二酸化炭素)処理です。3-5%炭酸ガス濃度下(大気中の濃度は約0.035%)で受粉させると自家不和合性が働かなくなるので、ダイコンの親系統の種採りに実用化されています(注)。

では、「桜島ダイコンの品種改良に高濃度の二酸化炭素中で受精させると、いい品種ができるか」ということです。農業試験場の方がどういう文脈で話をされたかは分かりませんが、恐らく、こういう意味だと思います。桜島ダイコンは江戸時代から農家に代々伝えられ、近代育種の手が全く入っていません。当然ハイブリッドではありません。これが同じ品種かと思えるぐらい、大小、様々な形をしています。ハイブリッド化すれば、品質の優れた生育の斉一品種 ができる可能性があります。いい純系の親を育成するのに、炭酸ガスによる自家不和合性打破が効力を発揮するということではないでしょうか。

余談になりますが、炭酸ガスによる自家不和合性打破を発見された東北大学前教授日向先生から面白い逸話を聞いています。自家不和合性に対するエチレン の作用を確かめたいと思ったが、エチレンを買う金がない。そこで、エチレンを多量に発生するリンゴを使ってみようと思い立ち、リンゴと受粉したアブラ ナの花を密閉容器に入れると、見事に自家不和合性が破れた。これは大発見と意気こんで、今度は大枚はたいて買ったエチレンを与えても、さっぱり効かな い。よくよく調べてみると、リンゴの呼吸で発生する二酸化炭素であったということです。「金がなかったので、手(労力)と頭を使った。」と言われてい ました。

(注)他のアブラナ科の植物でも同様な効果はあるのですが、実用化されていると話は聞いていません。ただ、この点は種苗会社にとって非常に大事なノウ ハウなので、公表されてないだけかもしれません。

岩井 純夫(鹿児島大学農学部)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2007-03-06
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