一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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葉のよれのメカニズムは?

質問者:   会社員   もうすぐ32歳
登録番号1195   登録日:2007-02-20
観葉植物を飾っていて、夏場、直射日光下(ガラス越し風通しなし)の環境で朝と夕はなんともないのですが、昼間は葉がダランとなることがあります。暑さのせいだというのはわかっていますが、葉の中でどのようなことが起こっているのでしょうか。また、影で飾っていて、急に直射日光下(ガラス越し風通しなし)に移したとき、上記とは違って、葉がダランとなって戻らないことがあります。急激な環境の変化によるものだとはわかりますが、葉の中でどのようなことが起こっているのでしょうか。前者の場合にくらべ後者は、何かしら限界を超えたため、元に戻らなくなったのでしょうか。宜しくお願いします。
もうすぐ32歳 様

 水を充分に与えられた植物の葉が“しゃん”としているのは、葉を含め植物細胞の大部分(柔細胞)には、細胞の体積の、時に90%以上を占める液胞に水が充分に入っているためです。植物細胞は動物細胞と異なり、細胞壁をもつこと、大きな液胞をもつことが特長ですが、これによって植物の形を水によって“しゃんと”させています。液胞は糖や無機イオンを初め多くの成分が含まれているため浸透圧によって水を取り込みやすく、いわば、“風船”に水が一杯に入っていてパンパンの状態になっていると考えて下さい。しかし、植物細胞はやや硬い箱である細胞壁に取り囲まれていて“風船”の圧力(膨圧)によって“箱”がやや膨れた状態となって、膨圧と釣り合った状態になり、葉を初めとする組織が“しゃん”とした状態になります。
 しかし、水が与えられないときや、葉の蒸散作用によって水が気孔から失われる量が、根からの水の吸収、葉への移動量より大きくなって、葉や茎などの組織の水分含量が低くなるにつれ、液胞(“風船”)の水も失われ、“風船”の膨圧が低くなり、個々の細胞が“しゃん”とできなくなります。これが、いわゆる“しおれた”状態です。この様に、葉が“しゃん”としているか、“しおれた”状態になるかは葉や茎の水分含量によって決まりますが、この水分含量は、水の根からの吸収、移動が一定であれば、主に葉の蒸散量によって決まります。蒸散は葉の気孔の開閉によってコントロールされていますが、これは、光の照度、温度、湿度など環境要因によって決まります。蒸散が環境によってどのように変動し、どのようにコントロールされているかについては、この“みんなのひろば”の中の“植物科学のトピックス”に、“気孔の働きと開閉の仕組み”と題して木下 俊則 先生が詳しく解説されておられますので、ご覧ください。
 ご質問の観葉植物が“しおれた”状態になった原因は、基本的には環境の変動(高い光照度、高温)によって蒸散量が増加したのが原因と考えられます。木下先生の解説と“しおれた”状態を導いた環境とを考え合わせて、この観葉植物について考えて下さい。“しおれた”状態が短時間であれば、蒸散量が少なくなれば葉は再び“しゃん”とした状態に戻ることができますが、これがどの点まで可逆的になるのか、不可逆的になるのかは、植物の種類、“しおれた”状態の程度、それが続いた時間などによって大きく変動するため、一般的にお答えはできません。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2007-02-26