一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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シュロ皮はなんのためにあるのでしょうか

質問者:   自営業   偏西風
登録番号1208   登録日:2007-03-12
熱帯植物では 着床植物や這い登り植物を振り落とすため
 葉を腐らせ一緒に落としてしまうと聞きました
 ソテツやヤシの葉はそのようになっています
ところが シュロ皮は腐りにくいので当てはまりません
 シュロには着床植物がつきやすいのでしょうか
 シュロ皮は植物にとって何のメリットがあって
 そのようなものができているのでしょうか
 人間に作られた栽培植物だからでしょうか
植物生理というより 進化や古生物になりますが
よろしくお願いします
偏西風さま

みんなの広場へのご質問ありがとうございました。大変長いことお待たせいたしましたが、東京大学のつかや先生から回答を頂くことが出来ましたので、お届けします。

塚谷先生からの回答

偏西風様
おもしろい質問をありがとうございます。
着生植物はそれほど樹にとって害がないように思いますが、つる植物はイチジク属のように、初めはか弱そうに見えながら、気を許していると絞め殺し植物に豹変する場合がありますから、たしかに振り落とした方が良いでしょうね。でも葉を落とす程度では、彼等の攻撃は免れないと思います。かなり強固にしがみついたり絡みついたりしますから。またソテツは日本だと海岸地帯に多いように、それほど幹に余計な着生植物やつる植物がたかるような環境にはいないので、そういう生態的意味は薄いのではないでしょうか。むしろ、病原菌を身の回りから減らす意味の方が強いような気がします。
さてシュロの皮ですが、これはなんでしょうね。シュロ皮は着生ランの栽培に使う人がいるくらいで、たしかに着生植物をふるい落とす役目はありそうにありません。あれはそもそも葉柄の基部に発達した繊維ですね。もともとシュロやその他いくつかのヤシ科の植物はああいう繊維を葉の基部に作るので、人為的なものではありませんから、何か意味はあるのでしょう。ご質問を読んで、一瞬、シュロは東京都内でも見られるように、ヤシとしては北方に適応した種類なので、それと関係あるかなとも思いましたが、よく考えてみるとサトウヤシ(椰子砂糖を作るヤシですね。ちなみに椰子砂糖は味が濃くておいしい砂糖です)も、熱帯域に生えながらシュロ皮に似たものを作りますし、日本でも西表島などの水辺に生えるクロツグも同様です。そう考えてみると、生育環境ともあまり関係なさそうですね。葉柄の付け根を包むこと自体に、何か意味があるのでしょう。その際、腐りやすい性質のものだと、そんなものを身にまとっていたら自分が病気になってしまいますから、丈夫で分解しにくいものに次第に進化したのではないかとも思います。
シュロの場合はそういうわけでよく分かりませんが、おもしろいのは、熱帯の林床に生える植物の中には、頭上から降ってくる落ち葉や枯れ枝を身の回りに集めて栄養分とするものもあることです。熱帯多雨林では雨が多すぎて、また菌類や昆虫などの分解者の活動が活発すぎて、地面に腐植土が溜まるゆとりがありません。そこでひもじい思いをしている植物も多いらしく、葉の付け根に細かい根などのネットを張って、上から降ってくる落ち葉を溜め、自分専用の腐植土を用意するものさえいます。シュロのシュロ皮がそれだとは言うことができませんが、ご質問の回答を考えているうちにふと思い出したので、ついでにご紹介しておきます。

塚谷 裕一(東京大学大学院・理学系研究科 教授)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2007-04-10
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