一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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樹木の樹齢と抗酸化の関係について

質問者:   会社員   ゆき
登録番号1212   登録日:2007-03-15
植物の抗酸化に関する質問ですが、樹齢の長い樹木などは日光に浴びる時間も長くなり、その日光によって発生する活性酸素等に対する抗酸化作用(物質)等も結果的には高くなるとういことは言えるのでしょうか。一概には言えないでしょうが、そういうことも十分考えられるのかどうか、教えていただけますでしょうか。よろしくお願いいたします。
ゆき さま

 樹齢の永い樹木は抗酸化成分が多いかとのご質問ですが、これは一般的にお答えするのは難しい問題です。植物が活性酸素による障害を防ぐために抗酸化成分を最も多量に合成しているのは、葉の細胞です。葉の細胞は光合成によって酸素を発生するため細胞内の酸素濃度が高く、活性酸素を生成する代謝がさかんであり、さらに太陽光を浴び、さらに色素を多量に含むため光によって活性酸素を最も生成しやすい性質をもっています。葉の細胞には代謝反応を触媒する酵素が多く含まれ、たんぱく質である酵素は一般に活性酸素によって酸化、分解を受けやすく、さらにこれらの酵素が配置されている生体膜の脂質も活性酸素によって酸化されやすい成分です。この様な活性酸素によって酸化されやすい分子を活性酸素の標的分子とよんでいますが、活性酸素が発生しやすく、標的分子の多い葉の細胞には、抗酸化成分を初めとする活性酸素を消去する強力な機構が必要です。実際に葉の組織には多種類、多量の抗酸化成分を含み、これがなければ葉の組織でも“日焼け”によって枯れてしまいます。

 ところで、樹齢の永い樹木も葉の組織は、毎年、若芽―落葉を経て更新されていますから、これらは一年生植物の葉と同様に高い活性酸素の消去機能をもっています。太陽光に永年さらされているのは幹の組織になりますが、幹や枝のような組織、特に木部は、一般に代謝がほとんどない死細胞であり、たんぱく質、脂質がなく、活性酸素の標的分子を含んでいません。また、当然のことながら光合成をしないため、細胞内の酸素濃度も高くなりません。幹、枝の木部の構成成分であるセルロース、へミセルロース、リグニンなどは活性酸素によって酸化されにくく、また幹には葉と異なり色素の量が少ないため、太陽光をずっと浴びていても活性酸素を余り生成しません。さらに太陽光にさらされているのは表面の細胞のみで内側の細胞は光には直接さらされていません。従って、幹や枝の組織、特に木部では、活性酸素の生成量が少なく、標的分子も少ないため、抗酸化成分をあまり必要としないため、一般的には樹齢が永くても抗酸化成分の含量は低いと考えてもよいでしょう。ただ、幹や枝でも樹皮の内側(木部の外側)の柔細胞は生きている細胞であり、たんぱく質、脂質など標的分子を葉ほどではないにしても含んでいるため、抗酸化成分を合成し柔細胞を守っていると考えられます。これによって柔細胞の生理機能―養分の移動、養分の貯蔵など(登録番号0690に対する回答参照)―が低下しないようにしていると思われます。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2012-08-25
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