一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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遺伝子組み換え植物と野生植物の交雑

質問者:   高校生   環境科学部
登録番号1223   登録日:2007-04-26
遺伝子組み換え植物を学びました。
組み換え遺伝子が自然界へ流失しないように栽培環境を隔離するとあり、それは雑草などの野生植物が耐除草剤性などの遺伝子を盗まないようにするためと調べて分かりましたが遺伝子組み換え植物と近縁な野外植物とが自然交雑するか、あるいはできるのかということをどのように調べればよいですか?
単純に人工交雑して花粉管の伸長を調べても遺伝子レベルの交雑の有無は分からないと思います。高校の実験室で調べられる範囲の方法はないでしょうか?
環境科学部のみなさん

遅くなりましたが、質問(登録番号1223 )に対する回答を送ります。
この問題については、関連の研究をされている国立環境研究所の玉置雅紀先生に回答していただきました。単に実験方法を示すだけでなく、日本で調べられた遺伝子組換えセイヨウアブラナの実例を挙げて、現状の説明も加えていただきましたので、参考にして下さい。

勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)

組換え体を扱う実験は、法律によって規定されています。その点をわかりやすく小泉先生に説明して頂きましたので参考にしてください。高校での組換え体植物の栽培と掛け合わせ実験は不可能と考えて下さい。

河内 孝之(JSPP広報委員長)


回答:
ご質問の内容をある植物が遺伝子組換え植物と交雑して出来た子孫かどうかを調べる方法であると解釈してお答えいたします。
現在日本では少し古いデータですが、平成15年5月23日現在で、7品種44系統の作物が食品として栽培することが出来る状況になっています。しかし、今のところ一部の小規模な試験栽培を除いて、これらの作物が大々的に栽培されているということはありません。また試験栽培においても、花粉の飛散などを考慮して近隣に同じ作物を栽培している農家がある場合、それがどれだけ離れていていれば試験栽培して良いのかをかなり厳しい基準で設定しています。そのような状況で果たして遺伝子組換え植物と農作物あるいは近縁野生種との交雑は起こりうるのでしょうか?可能性があるとすればセイヨウアブラナです。日本におけるセイヨウアブラナの輸入量は2002年の統計では208万トンで、輸出国側の遺伝子組換え体の栽培面積から考えて、輸入されているセイヨウアブラナの約半分に組換え体が混入していると予想されます。これらは種子を輸入しており、主に菜種油を生産するために輸入されています。そして、農水省および環境省の研究によりこれらの種子を港で積み卸し、工場に運ぶ途中のトラック輸送により、港、あるいは幹線道路で種子のこぼれ落ちが発見されました。そしてその中には遺伝子組換えアブラナが含まれていました。我が国にはこのセイヨウアブラナと交雑可能は植物がいます。代表的なのはカラシナです。したがって、遺伝子組換えセイヨウアブラナとカラシナの交雑が起こり、組換え遺伝子が子孫に入り込む可能性があります。
ではどの様にそれを調べたらいいのでしょうか?

私たちの研究室では免疫クロマトグラフィーという方法を使っています。遺伝子組換えアブラナは野生のアブラナが作ることのない除草剤耐性に関係するタンパク質を作っています。免疫クロマトグラフィーではそのタンパク質をこれに対する抗体を用いて検出する方法を使っています。抗原抗体反応ですから比較的感度がよく、1000個体に1個体の遺伝子組換え体が混じっている場合でも検出可能です。方法は交雑の疑いがある試料に4倍量の水を加え、乳鉢ですりつぶします。このとき用いる試料は採取した後、ビニールに入れるのではなく紙袋で保管し、乾燥したもの、あるいは採取した直後のものを用いるのが大事になります。後はすりつぶした液にラテラルフロー試験紙という組換えタンパク検出用の試験紙を浸すだけです。およそ5分で結果が分かります。詳しくは以下のHPを参照してください。
http://biotech-id.cool.ne.jp/nakajima/method1.htm

ラテラルフロー試験紙の入手は以下のHPから
http://www.arbrown.com/product/food_inspection/neogen/idensi_rateral/index.html

もちろん本当はこれだけで正しいことが判るわけではなく、この試験で陽性と判断された個体は更に除草剤耐性の遺伝子を持つかどうか、また除草剤に耐性があるかどうかを調べることになります。しかし、今回紹介した方法で正しく採取された試料を用いるのであれば、陽性の植物はほぼ間違いなく遺伝子組換え植物であること断定することができます。

玉置 雅紀(国立環境研究所)



遺伝子組換え植物の栽培に関しては法令で定められたいくつかの段階があります。実用化を念頭に開発され、いくつかの試験をパスし、生態系への大きな影響が無い(生物の多様性が確保できる)と認可されたものは隔離して栽培しなくても構いません(それでも、それぞれの植物によってルールがあり、誰でも好きなように栽培して良いわけではありません)。上の回答にある遺伝子組換えセイヨウアブラナはその一例です。現状では、認可された遺伝子組換えセイヨウアブラナの種子がこぼれて、自生していても法令違反にはなりません(ほめられたことでは無いと思いますが)。大学や研究機関などで研究目的に作られた組換え植物の殆どについては生態系(生物多様性)への影響を調べる試験はなされておらず、隔離して栽培する必要があります。生態系(生物多様性)への影響としては、遺伝子組換え植物が雑草化しないか、遺伝子組換え植物が野生種を駆逐しないかなど、いろいろな点が考えられ、ご質問にある「雑草などの野生植物が耐除草剤性などの遺伝子を盗まないようにするため」とは言い切れません(遺伝子を盗むとは野生植物へ遺伝子が伝播するという意味ですね?)。
また、回答にあるセイヨウアブラナついて、野外で自生しているセイヨウアブラナが組換え体であるかどうかの判定を免疫クロマトグラフィーにより行うことは高校でも実施が可能ですが、組換え体であることが確認された段階で、遺伝子組換え植物を扱うことになり、その後の実験は法令「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(通称カルタヘナ法)」に基づいて行う必要があります。詳しくは文部科学省のホームページ
http://www.lifescience-mext.jp/bioethics/anzen.html#kumikae)をご覧下さい。基本的に高校で遺伝子組換え植物を用いた実験はできないと考えて下さい。
大阪府立大学
小泉 望 
回答日:2007-04-25
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