一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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LEDの実験からいえること

質問者:   高校生   たね
登録番号1244   登録日:2007-04-26
 パンジーとLEDを使って実験していますが次のような結果がでました。これについてどのようなことが考えられるかご指導ください。
 パンジーに白色LEDを照射しました。LEDを植物に近づけたり、離したりして
 明るいところ、中ぐらいなところ、そしてうす暗いところの3ケ所を設定しました。すると予想通り、薄暗いところのパンジーは茎が伸びて徒長しました。しかし明るいところでは徒長しません。中ぐらいなところは両者の中間でした。光が弱いほど草丈が伸びることがわかりました。あたりまえですが。

 しかし青色LEDを同様に明るさの違う3ケ所を作って照射したら結果は白色LEDと逆になりました。青の光が強いところほど草丈が大きいのです。そして光が中ぐらいなところ、弱いところへいくほど小さいのです。
 青色はパンジーの草丈の伸長を促進しているということではないでしょうか。また赤色LEDを使って同じように3ケ所で試験したら3区とも、ほとんど草丈はかわりませんでした。しいていえば若干強いほうが伸びていたと思います。赤色はパンジーにとってどんな役割があるのでしょうか?
 また赤の効果を確かめるにはどのようなところを調査すればよいのでしょうか。白色の波長のなかでは光が弱いところほど光を求めて徒長ではあるがよく伸びる。しかし青色では逆に光が強いところほど草丈の生長が促進される。
赤色では光の強弱と草丈の生長には深い関係がない。とまめましたが、なぜ明るくても暗くても波長が違うと伸びるようになるんですか?花の赤色、青色の効果についてとあわせて教えてください。
 
  
たね さん

5月の連休が重なったため、お答えするのが少し遅くなりました。
ご質問には、日立製作所新事業開発本部・(兼務)中央研究所で植物の生育に及ぼす光の影響について解析を進められている篠村 知子博士から、以下のような詳しい回答をいただきました。ご参考にして下さい。なお、光の強さの測定に関しては、本質問コーナー登録番号1226の回答をもご参考にして下さい。また、測定の原理的なことについては、出来ましたら、学校の物理の先生に相談されることをお勧めします。

ご質問のパンジーの実験は、光の強さや光質(波長)による「植物の成長への効果」もしくは、「茎の徒長抑制の効果」を調べる目的でされたのでしょう。「なぜ明るくても暗くても波長が違うと伸びるようになるんですか?」という質問への答えですが、それは、たまたま実験をなさった波長の光強度が、異なる二つの違った反応を引き起こしていて、たまたまどちらも「伸びる」ように見えたからだと考えられます。

このような実験をするときには、「光照射による光合成を介する成長」と、「光の不足による茎の徒長」を注意深く見分ける必要があります。どちらも一見、草丈を大きくするかに見える効果がありますが、前者は植物が健康にすくすく育つ反応であり、後者は光が不足するので光のあるところまで無理をしてでも伸びていこうとする反応です。ふたつの現象をきちんと見分けてやらなくては、何を調べているのか混乱してしまいます。ふたつの現象を見分けるひとつの目安は、(1)どのような強度の光を用いたか、(2)実験前後では植物体全体の質量が増加しているかどうか(乾燥重量や湿重量の測定をするのがいいでしょう)、(3)実験前後では茎の節と節の長さ(節間の長さ)が長くなっているかどうか、を正確に計測することが助けになります。

おおまかにいって、強い光強度のところでは「光照射による光合成を介する成長」の効果が強くあらわれ、弱い光強度(のところでは、「光の不足による茎の徒長」の効果が強くあらわれます。光が強い弱いというのは主観的な表現ですので、正確に計測しましょう。異なる光源からの光の強さはフォトメータを用いて正確に測定し比較することができますし、同一の光源からの光の強さの比較は照度計による計測値も目安になります。おおよそ、0.1〜1ミリW(ワット)/cm2(平方センチメートル)より大きな光強度では光合成の効果が強くあらわれ、それより弱い光強度では光の不足による徒長の効果がみられるようになると考えてよいと思います。

ご質問の、パンジーに白色LEDを照射した実験では、薄暗い光強度のところでは、「光の不足による茎の徒長」の効果が強くあらわれたようです。

次に、青色LEDと赤色LEDを使って似たような実験をしたら、白色LEDのときのような、光強度が弱くなると徒長するとの関係が見られなかったのですね。青色LEDと赤色LEDの光強度はどの程度だったのでしょうか。

一般的に、青い強い光は光合成を促進するので、そのような光の下で約1週間程度育てた植物は健康に育ち、弱い青い光の下で育てた植物よりも、草丈が大きくなる現象を観察することがあります。一方、光強度の弱い環境では、弱い青い光は、まったく光が当たらない場合に比べて茎の徒長を抑制する効果をもつ場合があります。今回、ご質問の青色LEDの実験では、青い強い光による光合成の促進による成長の効果を見ている可能性があります。

一方、赤色LEDを使っての実験では、光強度を変えた3区ともほとんど草丈はかわらなかったそうですが、実験中に、赤色光の照射以外の光は絶対に当たっていなかったかどうかを、まず確認してください。赤色LED以外の光は絶対にあたっていなかったにもかかわらず、そのような実験結果を得たのであれば、「実験にもちいた光強度の範囲では徒長に差がみられない」と結論づけることはできますが、もっともっと光強度を弱くすると、光をあてた場合と光をあてなかった場合との間に差が見られるようになる可能性もあります。実際、フィトクロムという光受容体が関与する、赤色光による徒長抑制では、そのような現象をしばしば観察します。

そこで、「異なる波長の光による徒長抑制の効果」に注目して現象をはっきりさせるためには、白色LED、青色LED、赤色LEDいずれの実験も、もっと弱い光強度(光合成をほとんど引き起こさない弱い光)のところでの反応を、くわしく調べましょう。
模造紙を1枚通すと、光強度はだいたい1/10から1/100くらいになりますので、光の弱いところでの実験は比較的容易です。この実験のときは、他の光が絶対にあたらないように注意深く植物を管理してください。徒長したかどうかの計測は、茎の節間の長さを測るのがいいと思います。光の波長ごとに、徒長抑制の効果がはっきり見られる光強度がどのように違うかがわかれば、過去のいろいろな文献との比較が可能になります。

今回の回答では光の強度だけの話をしましたが、実は、光を照射する期間や、光のあて方(ずっとあてっぱなしにするか、一日に数時間光照射することを繰り返すか)でも、植物の成長は微妙に変わってきます。実験に用いる植物として、暗いところで発芽させた芽生えを使用するか、明るいところで育てた苗を使用するかでも、結果が違ってきます。植物の育つ環境や、成長のステージによって、成長や調節にかかわる光受容体が違ってくることがあるからです。

花の赤色、青色の効果については、また全然違う興味深い話になりますので、別の機会にお話することにしましょう。

篠村 知子(日立製作所新事業開発本部・(兼務)中央研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2007-05-07