質問者:
大学生
パセリ
登録番号1256
登録日:2007-05-09
動物の場合は血液中のヘモグロビンと結合して植物の呼吸について
細胞まで酸素を運んでいますよね。
植物は葉の気孔から酸素を取り入れていますが、
そのあとどうやって細胞のミトコンドリアまで運んでいるのかが分かりません。詳しい流れを教えて下さい。
パセリ さま
呼吸による酸素の消費とそれに伴って発生する二酸化炭素の放出機構が、植物と動物でどのように異なるかについてのご質問ですが、ご存知のように酸素の細胞への供給は生物の生存にとって欠かすことのできないATP生成に必須の過程です。動物では、ヘモグロビンに酸素が結合し(Hb-O2;オキシへモグロビン)、これが酸素の運搬体となって血管を経て組織細胞に酸素を運ぶ循環系が働いています。これによって組織の細胞表面に酸素が運ばれています。血液で赤血球に含まれるヘモグロビンに結合できる酸素濃度は10 mM(空気と平衡になった水に溶ける酸素濃度は0.25 mM)ですが、これが組織の細胞表面で酸素分子を50%放出する酸素濃度は〜0.05 mMです。このように水に比べ血液は体積当たり40倍の酸素をHb-O2のかたちで運ぶことができ、しかも、遊離の酸素濃度は水より低く、これによって循環に必要な負担(心臓の大きさ)を小さくすると同時に、細胞表面で遊離した酸素濃度を低く保ち、細胞が(活性酸素による)酸素傷害を受けないようにしています。
細胞表面でHb-O2から遊離した低濃度(〜0.05 mM)の酸素分子は、細胞膜を透過して細胞内に吸収されますが、この過程は基本的に物理化学的過程であり、細胞表面と細胞内部の酸素の濃度差による拡散によって進行します。酸素分子は水への溶解度が低いことからも推定されるように疎水性分子であり、酸素は(疎水性の)細胞膜をその間に濃度勾配さえあれば容易に透過できます。細胞内で最も多量に酸素分子を消費する反応はミトコンドリアにあるシトクロームcオキシダーゼですが、この酵素は極低濃度の酸素でも利用できそのKm 値は10〜100 nMです。そのため、ミトコンドリアの周りの酸素濃度はこのKm値の濃度に近いと考えられます。すなわち、細胞表面と細胞内のミトコンドリアとの間には2〜3桁の酸素の濃度勾配がありこれが原動力となって細胞への酸素吸収が進行しています。
動物の組織には細胞がびっしり詰まっているため、循環系によって血管を通じてヘモグロビンで酸素を運ばなければ、拡散によるだけでは充分量の酸素を全ての細胞に供給できません。酸素を含め低分子代謝物の水の中での拡散は細胞くらいの距離であれば短時間に進行し、代謝に見合う速度で拡散できますが、拡散は距離が少しでもし大きくなると時間がかかるため、代謝物の拡散による移動が代謝速度より遅くなります(細胞の大きさが、例外はあるにしても、ほぼ一定であるのは、酸素が細胞表面からミトコンドリアに代謝に見合う速さで拡散できる距離によって決まるためと考えてよいでしょう)。
植物の場合、組織の中には必ず気孔を通して大気に連なっている細胞間隙ネットワークをもっています。気孔をもたない樹木の古い樹皮でも皮目のような穴を通して大気が入り込み柔細胞に酸素を供給しています。光合成をしている葉は多数の気孔をもち、植物で最もガス代謝が盛んな組織ですが、この様な薄い組織でさえ特に葉の裏側の海綿状組織には細胞間隙のネットワークが発達し、昼間は光合成に伴う速やかな酸素の発生、二酸化炭素の吸収、夜間には呼吸に伴うガス代謝が進行しています。沼地に生え根に酸素を供給しにくいハスの根(蓮根)にみられる穴は、根に酸素を供給する目にみえる大きな細胞間隙です。ビーカーに水を入れこれに葉を浸してデシケーターに入れ、減圧にすると葉から泡が出てきますが、この泡は葉の細胞間隙に入っていた空気によるものです。デシケーターをそのまま常圧に戻すと細胞間隙に水が入りますが、このときの重量増加から細胞間隙の体積を求めることができます。
このように植物では大気酸素が気孔―細胞間隙の経路で直接に細胞表面に送られ、気体の状態で細胞膜(原形質膜)に(液体を介さないで)接触し、酸素が膜を透過して吸収されます。植物細胞が大気から酸素を直接に吸収するこの過程が効率的であることは、上に述べたように真空処理をして水を細胞間隙に注入した葉では、酸素の吸収が格段に抑えられることからもわかります。気体の状態で酸素が拡散する速度は、液体の中を酸素が拡散する速度に比べ約1万倍も速く、これは二酸化炭素についても同じであり、光合成、呼吸のガス代謝にとって、細胞間隙を通しての気体の直接的なガス交換が優れていることがわかります。実際に細胞間隙に水を注入した葉の光合成は抑制されるばかりでなく、光合成ができないため光・酸素傷害を受けやすくなります。
ヘモグロビンは一般に植物には含まれていないと思われていますが、窒素固定をする細胞、特にマメ科植物の根にできる根粒細胞にはレグヘモグロビンとよばれる、動物のヘモグロビンと同様、ヘムに酸素を結合する蛋白質を含んでいます(ダイズの根粒をかみそりで切れば赤色のレグヘモグロビンが見られます)。これは、窒素固定をする酵素(ニトロゲナーゼ)が酸素に不安定であるのに反し、窒素固定反応を進行させるために必要なATPを酸素呼吸によって生成しなければならない、相反した要求を両立させるために、レグヘモグロビンの酸素との高い結合性(親和性)を利用しています。これについて、本質問コーナーの登録番号0169, 登録番号0907, 登録番号1142それぞれの回答に解説があるのでご覧ください。この他、窒素固定を行う植物以外の植物も、動物のヘモグロビンに似たアミノ酸配列をもつヘモグロビンの遺伝子をもつこと、少量ではあるけれども発現していることが最近、明らかにされています。その機能は恐らく組織の酸素代謝に関係し、病原菌に対する抵抗性などに関与することなどが示されています。
呼吸による酸素の消費とそれに伴って発生する二酸化炭素の放出機構が、植物と動物でどのように異なるかについてのご質問ですが、ご存知のように酸素の細胞への供給は生物の生存にとって欠かすことのできないATP生成に必須の過程です。動物では、ヘモグロビンに酸素が結合し(Hb-O2;オキシへモグロビン)、これが酸素の運搬体となって血管を経て組織細胞に酸素を運ぶ循環系が働いています。これによって組織の細胞表面に酸素が運ばれています。血液で赤血球に含まれるヘモグロビンに結合できる酸素濃度は10 mM(空気と平衡になった水に溶ける酸素濃度は0.25 mM)ですが、これが組織の細胞表面で酸素分子を50%放出する酸素濃度は〜0.05 mMです。このように水に比べ血液は体積当たり40倍の酸素をHb-O2のかたちで運ぶことができ、しかも、遊離の酸素濃度は水より低く、これによって循環に必要な負担(心臓の大きさ)を小さくすると同時に、細胞表面で遊離した酸素濃度を低く保ち、細胞が(活性酸素による)酸素傷害を受けないようにしています。
細胞表面でHb-O2から遊離した低濃度(〜0.05 mM)の酸素分子は、細胞膜を透過して細胞内に吸収されますが、この過程は基本的に物理化学的過程であり、細胞表面と細胞内部の酸素の濃度差による拡散によって進行します。酸素分子は水への溶解度が低いことからも推定されるように疎水性分子であり、酸素は(疎水性の)細胞膜をその間に濃度勾配さえあれば容易に透過できます。細胞内で最も多量に酸素分子を消費する反応はミトコンドリアにあるシトクロームcオキシダーゼですが、この酵素は極低濃度の酸素でも利用できそのKm 値は10〜100 nMです。そのため、ミトコンドリアの周りの酸素濃度はこのKm値の濃度に近いと考えられます。すなわち、細胞表面と細胞内のミトコンドリアとの間には2〜3桁の酸素の濃度勾配がありこれが原動力となって細胞への酸素吸収が進行しています。
動物の組織には細胞がびっしり詰まっているため、循環系によって血管を通じてヘモグロビンで酸素を運ばなければ、拡散によるだけでは充分量の酸素を全ての細胞に供給できません。酸素を含め低分子代謝物の水の中での拡散は細胞くらいの距離であれば短時間に進行し、代謝に見合う速度で拡散できますが、拡散は距離が少しでもし大きくなると時間がかかるため、代謝物の拡散による移動が代謝速度より遅くなります(細胞の大きさが、例外はあるにしても、ほぼ一定であるのは、酸素が細胞表面からミトコンドリアに代謝に見合う速さで拡散できる距離によって決まるためと考えてよいでしょう)。
植物の場合、組織の中には必ず気孔を通して大気に連なっている細胞間隙ネットワークをもっています。気孔をもたない樹木の古い樹皮でも皮目のような穴を通して大気が入り込み柔細胞に酸素を供給しています。光合成をしている葉は多数の気孔をもち、植物で最もガス代謝が盛んな組織ですが、この様な薄い組織でさえ特に葉の裏側の海綿状組織には細胞間隙のネットワークが発達し、昼間は光合成に伴う速やかな酸素の発生、二酸化炭素の吸収、夜間には呼吸に伴うガス代謝が進行しています。沼地に生え根に酸素を供給しにくいハスの根(蓮根)にみられる穴は、根に酸素を供給する目にみえる大きな細胞間隙です。ビーカーに水を入れこれに葉を浸してデシケーターに入れ、減圧にすると葉から泡が出てきますが、この泡は葉の細胞間隙に入っていた空気によるものです。デシケーターをそのまま常圧に戻すと細胞間隙に水が入りますが、このときの重量増加から細胞間隙の体積を求めることができます。
このように植物では大気酸素が気孔―細胞間隙の経路で直接に細胞表面に送られ、気体の状態で細胞膜(原形質膜)に(液体を介さないで)接触し、酸素が膜を透過して吸収されます。植物細胞が大気から酸素を直接に吸収するこの過程が効率的であることは、上に述べたように真空処理をして水を細胞間隙に注入した葉では、酸素の吸収が格段に抑えられることからもわかります。気体の状態で酸素が拡散する速度は、液体の中を酸素が拡散する速度に比べ約1万倍も速く、これは二酸化炭素についても同じであり、光合成、呼吸のガス代謝にとって、細胞間隙を通しての気体の直接的なガス交換が優れていることがわかります。実際に細胞間隙に水を注入した葉の光合成は抑制されるばかりでなく、光合成ができないため光・酸素傷害を受けやすくなります。
ヘモグロビンは一般に植物には含まれていないと思われていますが、窒素固定をする細胞、特にマメ科植物の根にできる根粒細胞にはレグヘモグロビンとよばれる、動物のヘモグロビンと同様、ヘムに酸素を結合する蛋白質を含んでいます(ダイズの根粒をかみそりで切れば赤色のレグヘモグロビンが見られます)。これは、窒素固定をする酵素(ニトロゲナーゼ)が酸素に不安定であるのに反し、窒素固定反応を進行させるために必要なATPを酸素呼吸によって生成しなければならない、相反した要求を両立させるために、レグヘモグロビンの酸素との高い結合性(親和性)を利用しています。これについて、本質問コーナーの登録番号0169, 登録番号0907, 登録番号1142それぞれの回答に解説があるのでご覧ください。この他、窒素固定を行う植物以外の植物も、動物のヘモグロビンに似たアミノ酸配列をもつヘモグロビンの遺伝子をもつこと、少量ではあるけれども発現していることが最近、明らかにされています。その機能は恐らく組織の酸素代謝に関係し、病原菌に対する抵抗性などに関与することなどが示されています。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2012-08-25
浅田 浩二
回答日:2012-08-25