一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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光合成産物の行方について。

質問者:   大学院生   トマト
登録番号1265   登録日:2007-05-13
現在、トマトの研究をしています。そこで疑問に思ったことですが、
トマトでは、果実の発育ステージによって、果実が赤色に変わる頃を堺に、デンプンやアミノ酸の一部の蓄積量がピークを迎え、赤色が進むにつれて、蓄積量が落ちていくと思うのですが、
また、トマトは第1果房が着果する頃には第3果房と分化を始めていて、

葉で行なわれた光合成産物というのは、どこの果実に行くのですか?
つまり、第1果房で使われる光合成産物は第何葉で行なわれた光合成産物なのですか?第3果房では、第何葉で行なわれた光合成産物が転流しているのかということが知りたいです。
よろしくお願いします。
トマト さま

トマトの花軸は総状花序で茎に着生していますが、それぞれの花軸についたトマト果実の成長に必要な光合成産物がどの葉の光合成産物に由来するかは、トマトを専門にしていない私にとっては難問です。一般に葉で生産された光合成産物は、根に一部が転流する以外は基本的には、葉が茎に着生している位置より上に着生している若い葉、花(果実)に(主にショ糖として)転流し、新しい葉の光合成装置(葉緑体)の構築に(栄養成長)、また、果実を肥大させて種子を作り、それをできるだけ広く散布する機能をもたせる(生殖成長)のに、役立っています。トマトのように完熟すれば、ご質問にありますようにデンプンが分解して糖が増加する(果皮の厚くない、やわらかい)果実は、これによって鳥などが食べやすい状態にし、一緒に食べた種子を排泄物とともに、広く散布しもらえるようにしていると考えられます。トマトの葉、花、茎、未熟果実に多量含まれる毒性をもつアルカロイド配糖体であるトマチンが、果実が完熟すると極端に低くなります(本質問コーナー、登録番号0803に対する回答参照)。これも鳥などに食べられやすい状態にするためと思われますが、ヒトが完熟トマトを食べられるのもそのためです。

葉から果実への光合成産物の転流は、上に述べたように、花軸が茎に着生している位置より下の位置の茎に着生している葉の光合成産物に由来すると考えてよいと思います。さらに、茎に花-果実(果房)の花軸が着生する位置(花序)と茎に葉が着生する位置(葉序)との関係も重要です。茎を円筒と考えて真上から見て葉柄がどのように着生しているか(葉序)、花-果実の花軸が茎にどのように着生しているかをトマトについて調べて下さい。葉柄が着生している側の茎の半円と、その上の花-果実の花軸が茎に着生している側の茎の半円と重なる部分が、その果房が光合成産物を受け取ることのできる量に相当すると考えられます。これは、ある葉位の葉でCO2が固定された光合成産物は葉柄を経て茎の師管を経て転流しますが、葉柄、花軸の維管束はそれぞれが着生している茎の半円側の維管束と連なっているためです。これをトマトで実証するためには特定の葉位の葉を放射性CO2(14CO2)中で光合成を行わせ、放射能(14C)でラベルされた光合成産物がそれぞれの花軸についている果実にどれだけ転流しているかを測定する実験によって確かめることができるでしょう。

例えば、イネの葉序は(1/2)で、秋に出る穂の第一次花軸の花序は(2/5)です。穂が出て種実が実っていく頃、一番上に着生している葉(止葉)に14CO2を与え、その14C-光合成産物がイネの穂の各第一次花軸についている登塾中の種実に転流する量を測定したことがあります。それぞれの第一次花軸についている種実に転流した14C-光合成産物の量は同じではなく、下の第一次花軸から上に向かって、多い、少ない、中、中、少ない、多い、の順でした。この止葉から穂のそれぞれの第一次花軸に転流する光合成産物の量は、次のように、葉序と花序の関係から説明できます。茎を円筒と考え、上から見ると、止葉と穂の一番下の第一次花軸は、茎の同じ位置に着生しています。止葉は茎に着生している茎の半円側だけを通って14C-光合成産物を供給(転流)でき、第一次花軸はそれぞれが着生している茎の半円側だけを通った14C-光合成産物を受け取ることができると仮定します。すると、二つの半円が重なる面積はそれぞれの第一次花軸についている種実が受け取ることのできる14C-光合成産物となり、その割合は下から順に1 : 0.2 : 0.6 : 0.6 : 0.2 : 1となり、実験値もそのようになっています。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2012-08-25