質問者:
大学生
物理っ子
登録番号1268
登録日:2007-05-15
インドゴムノキのような熱帯植物の葉の構造は、一般的なものと比べると、海面状組織などが2〜3層にもなっていたり、ところどころ異なります。みんなのひろば
熱帯植物の葉の構造について
この一般的な葉の構造と異なるのはどういう原因があるからですか?
あと、鍾乳体はなぜ表皮細胞に出来るのですか?
物理っ子さま
みんなの広場へのご質問有難うございました。頂いたご質問の回答を東京大学の塚谷裕一教授にお願いいたしましたところ、以下のような回答をお寄せ下さいました。きっとお役に立つものと思います。
塚谷先生のご回答
ご質問ありがとうございます。熱帯の植物の葉の構造ですか。結構いろいろなのです、これが。熱帯は温帯に比べていろいろな面で非常に多様な生活のあり方を可能としている環境なので、一概にこれが一般的、ということが言えません。例外だらけだと言って良いかと思います。常々、植物学が今のように発達したのは、科学が温帯で始まったからだろうと思っているくらいです。熱帯では、何が一般則なのか、さっぱり分からないからです。温帯では逆に、「植物はこういうものだ」とか「葉はこういうものだ」という一般性がかなりはっきりしています。熱帯に比べて環境が厳しいため、いろいろと制約が多いのでしょう。逆に熱帯では、それはむしろタブーと言っていいのではないでしょうか。
というわけで、話をインドゴムノキに限ることにしましょう。
海綿状組織の層数が多いのは、光強度が強くて、かつ水が豊富な環境で光合成する植物の特性ですね。光が弱いと、葉の表側にある柵状組織で光合成に必要な光波長を全て吸収し尽くしてしまいますから、海綿状組織が存在する必要がありません。逆に、熱帯の強い光を浴びる環境では、どんどん光を光合成のために使ってしまわないと、過剰なエネルギーのために葉が壊れてしまいますから、海綿状組織からどんどん二酸化炭素を取り込んで、柵状組織と共に、葉に差し込む光エネルギーを使い尽くさなくてはなりません。
また海綿状組織は空隙が多い分、二酸化炭素の取り込みに有利な反面、乾燥しやすい構造です。ですから、乾燥地に生える多肉植物は、海綿状組織ではなく、密に細胞が詰まった組織で葉を厚くしますが、インドゴムノキは多雨林に生えるので、そういう乾燥の心配が割に少なく、海綿状でもいいのでしょう。ただ、やはり乾燥は困るので、強い光に対処して表皮は大変に厚く、しかもワックスでコーティングされていますね。意外にインドゴムノキは乾燥にも強くて、他の樹に着生することが多いようです。
以上のようなわけですので、熱帯でも林床に生えるものは海綿状組織が薄かったりもします。熱帯の植物の特徴ではなく、あくまで、インドゴムノキの特性とお考えいただいた方が良いでしょう。
一方、鐘乳体のある位置も、これもいろいろです。だいたいの役目としては、昆虫等に食害されるのを避けるための障害物でしょうから、囓られやすいところに置いておくのが良いのでしょう。ただ、これも表皮だけではありません。いろいろな植物の葉を切って観察してみると、鐘乳体を含む細胞の分布は、種によってまちまちなのに気がつくことでしょう。ちなみにホウレンソウをたくさん食べると舌がざらざらするのは、鐘乳体に含まれるシュウ酸カルシウムの結晶のせいですね。またインドゴムノキの場合は、乳管といって、切ったときに白い乳液を出す細胞も入っています。これは傷をふさぐ効果と、防腐作用と、それに加え、やはり食味を悪くして囓られにくくする効果があると思われます。これも、熱帯の特性というよりは、クワ科の植物やキク科の植物の多くが、温帯でもよく使っている手ですね。葉も単純な構造に見えて、植物ごとに、また暮らす環境(これには生物間の相互作用も含みます)ごとに、いろいろな仕組みを備えているものなのです。
塚谷 裕一(東京大学大学院・理学系研究科)
みんなの広場へのご質問有難うございました。頂いたご質問の回答を東京大学の塚谷裕一教授にお願いいたしましたところ、以下のような回答をお寄せ下さいました。きっとお役に立つものと思います。
塚谷先生のご回答
ご質問ありがとうございます。熱帯の植物の葉の構造ですか。結構いろいろなのです、これが。熱帯は温帯に比べていろいろな面で非常に多様な生活のあり方を可能としている環境なので、一概にこれが一般的、ということが言えません。例外だらけだと言って良いかと思います。常々、植物学が今のように発達したのは、科学が温帯で始まったからだろうと思っているくらいです。熱帯では、何が一般則なのか、さっぱり分からないからです。温帯では逆に、「植物はこういうものだ」とか「葉はこういうものだ」という一般性がかなりはっきりしています。熱帯に比べて環境が厳しいため、いろいろと制約が多いのでしょう。逆に熱帯では、それはむしろタブーと言っていいのではないでしょうか。
というわけで、話をインドゴムノキに限ることにしましょう。
海綿状組織の層数が多いのは、光強度が強くて、かつ水が豊富な環境で光合成する植物の特性ですね。光が弱いと、葉の表側にある柵状組織で光合成に必要な光波長を全て吸収し尽くしてしまいますから、海綿状組織が存在する必要がありません。逆に、熱帯の強い光を浴びる環境では、どんどん光を光合成のために使ってしまわないと、過剰なエネルギーのために葉が壊れてしまいますから、海綿状組織からどんどん二酸化炭素を取り込んで、柵状組織と共に、葉に差し込む光エネルギーを使い尽くさなくてはなりません。
また海綿状組織は空隙が多い分、二酸化炭素の取り込みに有利な反面、乾燥しやすい構造です。ですから、乾燥地に生える多肉植物は、海綿状組織ではなく、密に細胞が詰まった組織で葉を厚くしますが、インドゴムノキは多雨林に生えるので、そういう乾燥の心配が割に少なく、海綿状でもいいのでしょう。ただ、やはり乾燥は困るので、強い光に対処して表皮は大変に厚く、しかもワックスでコーティングされていますね。意外にインドゴムノキは乾燥にも強くて、他の樹に着生することが多いようです。
以上のようなわけですので、熱帯でも林床に生えるものは海綿状組織が薄かったりもします。熱帯の植物の特徴ではなく、あくまで、インドゴムノキの特性とお考えいただいた方が良いでしょう。
一方、鐘乳体のある位置も、これもいろいろです。だいたいの役目としては、昆虫等に食害されるのを避けるための障害物でしょうから、囓られやすいところに置いておくのが良いのでしょう。ただ、これも表皮だけではありません。いろいろな植物の葉を切って観察してみると、鐘乳体を含む細胞の分布は、種によってまちまちなのに気がつくことでしょう。ちなみにホウレンソウをたくさん食べると舌がざらざらするのは、鐘乳体に含まれるシュウ酸カルシウムの結晶のせいですね。またインドゴムノキの場合は、乳管といって、切ったときに白い乳液を出す細胞も入っています。これは傷をふさぐ効果と、防腐作用と、それに加え、やはり食味を悪くして囓られにくくする効果があると思われます。これも、熱帯の特性というよりは、クワ科の植物やキク科の植物の多くが、温帯でもよく使っている手ですね。葉も単純な構造に見えて、植物ごとに、また暮らす環境(これには生物間の相互作用も含みます)ごとに、いろいろな仕組みを備えているものなのです。
塚谷 裕一(東京大学大学院・理学系研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2007-05-22
柴岡 弘郎
回答日:2007-05-22