一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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水辺に生育する葦の茎の水分含有量は、他の植物と比較して多いですか?

質問者:   一般   谷村たまみ
登録番号1275   登録日:2007-05-21
始めまして。成田国際空港の近くに住む主婦です。飛行機の轟音がとどろく三里塚には美しい谷津田があります。谷津田を流れる小川にそって、私はウオーキングしたり、子供とザリガニをつったりして楽しんでいますが、その小川には葦がたくさん生育しています。ある日、葦をかじってみて驚きました。水辺の植物なので、きっと、水分をたっぷり吸い上げてみずみずしいだろうと思っていたのですが、意外に繊維質でぱさぱさしていまいた。そこで質問なのですが、水辺の植物は、他の植物と比べて水分含有量はどうなんでしょうか?とくに変わりがないなら、たっぷり吸い上げた水はどこにいってしまうんでしょうか?こんな質問でも答えてくださいますでしょうか?お忙しい中、お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします。
谷村たまみ 様

みんなの広場へのご質問ありがとうございました。頂いたご質問の回答を東京大学の寺島一郎先生にお願いいたしましたところ、以下のようなご回答をお寄せ下さいました。参考になさって下さい。

寺島先生のご回答

「水辺に生えている植物は、たっぷり水を吸っているからみずみずしいだろうか?」と、かじって実験なさったとのこと、感心いたしました。

 たとえば、田んぼの中に生えているアオミドロのような藻類の含水量(水を含んだ植物体の重さに対する水の重さ)は98%以上です。机の上に置いておく
と、ほとんど何もないほどにひからびてしまいます。みずみずしい草花の花や葉もそうなりますよね。このような植物では、水の大部分は細胞の中にあり、次に導管などの水を運ぶ組織や細胞の細胞壁に多く分布しています。葉は朝方に一番みずみずしく気孔をひらいてどんどん蒸散している昼間には最も乾燥します。ヒマワリの朝方の含水量は83%、昼間は78%だったというデータがあります。サトウキビやトウモロコシはもっとぱさぱさしている感じですが、トウ
モロコシで朝72%、昼間67%ということです。ヨシの葉もこのような感じでしょう。しっかりした構造になるにしたがって含水量は減っていきますので、ヨシの茎となるとずいぶん少なくて、ばさばさとしていたのでしょうね。樹木の幹の含水量は50%以下になるようです。

 さて、水がどこに行くのかというと、根から茎を通って葉に至り、葉の気孔から蒸散して大気に至ります。この流れによって植物は水とともに地中の硝酸イオンやアンモニアイオン、その他のイオン、根で作ったホルモンなどを茎や葉に送っています。また、蒸散にともない蒸発熱が奪われることによって、日中の葉のオーバーヒートを防いでいます。おおよその目安としてですが、一日に、植物は自分の体重と同じぐらいの水を蒸散しています。

 また、水の中に生えているからといってそれほど楽な生活をしているわけではないようです。とくに根のまわりの酸素が少なくなると、呼吸ができなくな
り、水も吸えなくなってしまいます。田んぼや沼地の土は酸素不足になりがちです。このような場合には、水の中に生えているイネでも、乾燥している日中には、蒸散による葉の乾燥が激しく、水不足になって気孔が閉じてしまうことがあるほどです。

 ヨシや、より深いところに生えるマコモにしても、好んで水の中に生えているわけではありません。オギ、ヨシ、マコモが共存する場合、水際から水中の方向にオギ、ヨシ、マコモがきれいな帯状分布をします。しかし、これらを単独で生やしてみると、どの種も水際でもっとも成長がよいのです。ヨシやマコモは、根が酸素不足にならないように、葉から根へ空気を送る仕組み* があるので、水のあるところに生えることができるのですが、好んでやっているわけではなく、他の種との競争の結果、本来好む場所を明け渡しているというのが実際です。

*茎や根に通気組織が発達します。また、クヌートセン(Knudsen)拡散とよばれる仕組みで圧をかけて空気を動かしています。

寺島 一郎(東京大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2007-05-31