一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

チェックリストに保存

常緑樹は冬になぜ新しい葉を作らないのでしょうか?

質問者:   大学生   あおやま
登録番号1283   登録日:2007-05-26
冬の間でも街を歩いていたら、葉をつけ続けている常緑樹(広葉樹、針葉樹ともに)を見かけます。
ようやく春になって、新しい葉が展開したので、冬の間は光合成をしていないのかと思っていたら、冬の間の光合成量もかなりのものである、という話を聞きました。
それではなぜ冬の間に新しい葉を作らないのでしょうか?
また、稼いだ光合成産物は何に使われている(どこに蓄えられている)のでしょうか?
あおやま さま

常緑樹が春になるまで新しい葉をなぜ作らないかのご質問ですが、これは簡単にはお答えするのが難しい問題です。逆に、落葉樹はどうして秋になると葉を失うように設計されているかの裏返しの問題でもあるわけですが、これらについては本質問コーナーでいろんな観点から議論されています。たとえば、“常緑樹”の語句で検索されれば、19のご質問に対する多くの面からの回答、議論があります。基本的には冬の間、光合成を続けて得られるエネルギー量(光合成産物の量)が、光合成装置である葉を冬の間、維持するのに必要なエネルギー量に比べ多ければ常緑性を、少なければ秋に葉を落とし、冬の間は樹木が休眠状態となる落葉性を選択すると考えてよいでしょう。

植物が常緑性か落葉性のどちらを選択してきたかは、その植物が生えている場所の光合成に関係する環境要因の一年間での変化とその値によって決まります。光合成が活発に進行する夏の期間の長さや温度、光合成速度が低くなる冬の期間の長さや温度、光合成を進行させるために絶対に必要な水の供給量(降雨量)とその時期などです。もう一つ重要なことは、常緑樹、落葉樹ともに、蓄えられた過去の光合成産物を用いて、春に光合成装置である葉を作り上げます。この光合成装置によってできるだけ多量の光合成産物を生産できれば大きく成長できるとの観点(投資効率)も、植物の常緑性、落葉性の選択にとって重要です。

以上のことから常緑樹が冬の間に新しい葉を作らないのは、温度の低い冬は夏に比べ光合成量が少なく、新しい葉を作るのに投資してもそれ以上の光合成量が冬の間は期待できないためです。それで、春に作り上げられ、夏―秋の間光合成を盛んに行ってきた葉は、長い間の光合成でいくらか老化して光合成装置の機能は低下していても、これを冬の間も使い続けていくらかでも光合成産物を余分に合成するのを、常緑樹は選択したためと思われます。日本では、一般に温度の高い南(低緯度)と温度の低い北に(高緯度)に常緑樹が多く、その中間地域では落葉樹が多くなっていますが、以上のことを考え合わせ、なぜそうなっているのか考えてみてください。

最後のご質問として、光合成産物が樹木ではどこに蓄えられているか、がありますが、これは本質問コーナーの登録番号0690の回答に、常緑樹、落葉樹について詳しく述べられていますのでそれをご覧ください。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2012-08-25
植物 Q&A 検索
Facebook注目度ランキング
チェックリスト
前に見たQ&A
入会案内