一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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屋上緑化による環境への効果について

質問者:   会社員   fukumasa
登録番号1296   登録日:2007-06-05
地球環境・都市環境の改善に少しでも寄与できればと思い屋上緑化を行おうと思っています。緑化することで実際どの程度の効果があるのか知りたくて質問させていただきます。
(条件)
・薄層緑化(セダム・タマリュウ)による緑化です。
・計算しやすく 1㎡緑化したとします。
(質問)
・年間のCO2の吸収量はどれくらいになるのでしょうか?また、その算出・根拠の仕方はどのようにすればいいのでしょうか?
 (過去の質問の草原のCO2の吸収量と同等と考えてよろしいのでしょうか)
・年間約何度位の温度低減につながるのでしょうか?また、その算出・根拠の仕方はどのようにすればいいのでしょうか?

もし、参考になる資料・HP等ございましたら教えてください。
どうぞよろしくお願いいたします。
fukumasa さま

屋上緑化のCO2固定量の見積もり、さらにこれが地球温暖化をどれだけ抑制できるか、についてのご質問ですが、特に第二の点は、植物の生理を主に研究している私たちにとっては正確にお答えするのは難しい問題です。
 
草本植物の平均的な年CO2固定量は、本質問コーナーの登録番号0421に対する回答にある値を第一近似として用いることができます。しかし、これらの値は植物の種類、栽培管理、環境によって大きく変動しますので、最終的には実測することが必要でしょう。この回答には、CO2固定量を見積もる場合のいろんな問題点(草本植物が枯れて土壌に入り、光合成産物が土壌呼吸で再びCO2になるのをどう補正するか)についても議論されています。要するに植物光合成によって固定された産物がその環境でできるだけ長期間、呼吸作用を受けずにとどまっているほど、大気CO2濃度を低く保つことができます。この点、森林の方が草原に比べ一般にCO2濃度を低くする効果が大きいと考えられます。

地球環境に対する効果を考える場合、次の点を考慮する必要があります。屋上草原をつくるための初期設備投資に必要なエネルギー、これを維持するための灌水、肥料(例えば、欠かすことのできない窒素肥料は工業的な窒素固定によってつくられています)、管理のためのエネルギー、これらはすべて化石燃料を燃焼してつくられたエネルギーが必要です。従って、屋上草原によって大気CO2濃度を低下させるためには、屋上草原の設置のエネルギーは別としても、少なくとも屋上草原の維持に必要なエネルギーを生産するときに発生するCO2(M)よりも、屋上草原によるCO2固定量(P)が大きいこと、M < Pであることが絶対に必要です。いろいろの農業形態で、M, Pがどのような比率になるか計算されています(Steinhart, J.S. & Steinhart C.E. (1974) Science, 184: 307)。このような点を充分に考慮してMを低くできなければ、M > Pとなり、屋上草原を設けることによって却って大気CO2濃度を増加させることになります。局部的な効果として屋上草原を設けることによって例えばビル冷房のためのエネルギーを低くする効果などもありますが、これらは環境工学、環境経済学の問題であり、それぞれの専門家の教示を仰いでください。

現在の地球で、植物光合成によるCO2固定の農耕地での割合は〜7%であり、残りの90%以上は海洋、森林、自然草原での光合成によっています(Field, C.B. et al. (1998) Science, 281: 237)。自然環境での植物によるCO2固定に加え、未利用空間を利用して少しでも植物によるCO2固定を行わせ、大気CO2濃度を低くすることの意義は大きいと思いますが、上記のM、Pの相互関係をよく考慮することが必要です。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2012-08-25