質問者:
教員
OKADA
登録番号1298
登録日:2007-06-08
植物は光合成によって栄養を得ていると学習しました。しかし,子ども達がなぜキャベツは葉が重なり合っているの。光合成がしにくい葉の付き方になっているの。という疑問をなげかけられました。調べてみたのですが,はっきりしません。よろしくお願い申し上げます。
なぜ,キャベツは光合成をしにくい葉の付き方をしているのですか
OKADA さん:
日本植物生理学会 みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。ご質問は標記の番号で受け付け、ここに回答をお送りします。
子ども達の率直な疑問は当然のことですが、残念なことにそれに対して直接お答えすることは、今の植物学の知識ではできないことなのです。それは、「なぜ地球上に、形も性質も違う生物がたくさんできてきたのか」という質問と同じことだからです。生物はその発生以来、およそ35億年にわたる長い年月に地球上に起きた、さまざまの気象、地質の変動に耐え抜いて進化を遂げ、現在の多様な形、性質を生み出してきたのです。「植物は光合成をし、根から栄養元素を吸収して・・・・・」という、基本的な活動のためには、葉の形にしろ、根の形にしろ、また茎の形にしろ、こんなにも多様な形を取る必要はありませんね。しかし、進化に見られる形や性質の変化は、遺伝子(DNA)の量や、組成の変化に基本的な原因がありますので、「生きる」という基本的な作業工程に変化がない限り、形や性質は多様に変化しても生き残れ、その結果として種や性質の多様性が生まれてきたものです。
さて、キャベツのご質問「どうして光合成をしにくい葉の付き方になっているのか」を、上の視点から考えてみましょう。まず、私たちがキャベツと呼んでいる野菜は、キャベツという植物の主軸の芽が肥大化したものです。多くの植物の芽は、短い茎にたくさんの葉が付いて萼や苞に包まれていますので、若い葉は互いに重なり合って、密に詰まり、丁度キャベツのようになっています。このような性質を、蔬菜園芸の分野では結球性と呼んでいますが、芽の結球性が生育に伴って、直ぐになくなってしまうか、いつまでも続くかの違いが、非結球性か結球性かを決めていると言えます。ハクサイのように、途中まで開きはじめるが止まってしまうものは半結球性と言っています。キャベツは、芽の結球性が長続きしていて、花茎が立ち上がるまで結球状態を保つ性質をもったものです。次に、光合成との関連ですが、野菜のキャベツができるまでは展開したロゼット状の緑葉をもっていて光合成をし、栄養をため込んでいます。ある時期になると、主軸の芽が貯蔵器官となり、それまでに茎や光合成葉にため込んだ栄養を送り込んだり、新たな光合成産物が芽に送られて、肥大した結球キャベツができます。そのため、結球キャベツ自身は光合成をしなくても大きく成長することができます。キャベツは主軸の芽が貯蔵器官になったものですが、伸びた茎の腋芽が貯蔵器官になったものが「芽キャベツ」(ブラッセルスプラウト)で、本質的に同じことです。キャベツという植物は変異の多い種で、もともとは地中海沿岸に自生する、非結球性のケールが変化してできたものとされています。ケールはケルト人によって、紀元前にすでに薬草、保健薬としてヨーロッパ全体に広められ、古代ギリシャやローマ時代には、保健薬草として栽培されていたものです。その過程で、多くの変異種が現れ、例えば、ケールの茎が肥大して球状になったものがコールラビ、花の蕾が肥大化したものがブロッコリー、ブロッコリーがアルビノ化(白色化)したものがカリフラワーになったものです。また、ケールの中心にある葉に色素が蓄積したり、あるいは白色化したものが選別されたものが、お正月などに使われる葉牡丹です。いずれも、初期の変異種から、育種という人為的交配、選別を繰り返して現在のキャベツ、ブロッコリーやカリフラワーになったことは言うまでもありません。
つまり、キャベツは、開く前の芽が貯蔵器官化して大きくなったので、光合成器官ではないのです。ですから、葉はたくさんありますが、光合成に不向きな形をしていても生き残ることができたものです。
日本植物生理学会 みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。ご質問は標記の番号で受け付け、ここに回答をお送りします。
子ども達の率直な疑問は当然のことですが、残念なことにそれに対して直接お答えすることは、今の植物学の知識ではできないことなのです。それは、「なぜ地球上に、形も性質も違う生物がたくさんできてきたのか」という質問と同じことだからです。生物はその発生以来、およそ35億年にわたる長い年月に地球上に起きた、さまざまの気象、地質の変動に耐え抜いて進化を遂げ、現在の多様な形、性質を生み出してきたのです。「植物は光合成をし、根から栄養元素を吸収して・・・・・」という、基本的な活動のためには、葉の形にしろ、根の形にしろ、また茎の形にしろ、こんなにも多様な形を取る必要はありませんね。しかし、進化に見られる形や性質の変化は、遺伝子(DNA)の量や、組成の変化に基本的な原因がありますので、「生きる」という基本的な作業工程に変化がない限り、形や性質は多様に変化しても生き残れ、その結果として種や性質の多様性が生まれてきたものです。
さて、キャベツのご質問「どうして光合成をしにくい葉の付き方になっているのか」を、上の視点から考えてみましょう。まず、私たちがキャベツと呼んでいる野菜は、キャベツという植物の主軸の芽が肥大化したものです。多くの植物の芽は、短い茎にたくさんの葉が付いて萼や苞に包まれていますので、若い葉は互いに重なり合って、密に詰まり、丁度キャベツのようになっています。このような性質を、蔬菜園芸の分野では結球性と呼んでいますが、芽の結球性が生育に伴って、直ぐになくなってしまうか、いつまでも続くかの違いが、非結球性か結球性かを決めていると言えます。ハクサイのように、途中まで開きはじめるが止まってしまうものは半結球性と言っています。キャベツは、芽の結球性が長続きしていて、花茎が立ち上がるまで結球状態を保つ性質をもったものです。次に、光合成との関連ですが、野菜のキャベツができるまでは展開したロゼット状の緑葉をもっていて光合成をし、栄養をため込んでいます。ある時期になると、主軸の芽が貯蔵器官となり、それまでに茎や光合成葉にため込んだ栄養を送り込んだり、新たな光合成産物が芽に送られて、肥大した結球キャベツができます。そのため、結球キャベツ自身は光合成をしなくても大きく成長することができます。キャベツは主軸の芽が貯蔵器官になったものですが、伸びた茎の腋芽が貯蔵器官になったものが「芽キャベツ」(ブラッセルスプラウト)で、本質的に同じことです。キャベツという植物は変異の多い種で、もともとは地中海沿岸に自生する、非結球性のケールが変化してできたものとされています。ケールはケルト人によって、紀元前にすでに薬草、保健薬としてヨーロッパ全体に広められ、古代ギリシャやローマ時代には、保健薬草として栽培されていたものです。その過程で、多くの変異種が現れ、例えば、ケールの茎が肥大して球状になったものがコールラビ、花の蕾が肥大化したものがブロッコリー、ブロッコリーがアルビノ化(白色化)したものがカリフラワーになったものです。また、ケールの中心にある葉に色素が蓄積したり、あるいは白色化したものが選別されたものが、お正月などに使われる葉牡丹です。いずれも、初期の変異種から、育種という人為的交配、選別を繰り返して現在のキャベツ、ブロッコリーやカリフラワーになったことは言うまでもありません。
つまり、キャベツは、開く前の芽が貯蔵器官化して大きくなったので、光合成器官ではないのです。ですから、葉はたくさんありますが、光合成に不向きな形をしていても生き残ることができたものです。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2007-06-11
今関 英雅
回答日:2007-06-11