一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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葉緑体の変わった動き

質問者:   大学生   かえる
登録番号1311   登録日:2007-06-17
先日、生物の実験でオオカナダモの葉緑体の原形質流動を見ました。
そこで、葉緑体の動きについて質問です。
葉緑体は一方方向にしか動かないと思っていましたが、
私が観察した葉緑体は、細胞の真ん中あたりから細胞壁に沿って
下に流れてきたのですが、突然方向転換して上に流れて行きました。
細胞壁にぶつかって方向転換したのではなく、一瞬下に流れてすぐに方向
を変えて上に動きました。
原形質流動には決まった流れの方向というものはあるのでしょうか?
葉緑体は自由に細胞壁に沿って動いているのですか?
どうして突然方向転換したのでしょうか?
変な質問だと思いますが、よろしくお願いします。
かえる様

みんなの広場へのご質問有難うございました。頂いたご質問の回答を原形質流動一筋に研究をなさってこられた大阪大学の高木慎吾先生にお願いいたしましたところ、以下のような回答をお寄せ下さいました。高木先生は少し専門的な解説になるとおっしゃっておられますが、かえるさんは大学生だということなので、理解していただけるものと思っています。勉強して下さい。

高木先生のご回答
かえるさんの質問に答えるには、少し専門的な解説が必要となります。
まず、「みんなのひろば 質問コーナー」の検索機能を使って、「原形質流動」という語句で検索をかけてください。過去の質問がいくつか出てくると思いますが、0087「葉緑体?」という質問に対する回答を読んでください。
僕もオオカナダモの葉の細胞をみたことがありますが、オオカナダモの葉緑体は、原形質流動に乗って受動的に動いていると思われます。原形質流動の軌道は、アクチンとよばれるタンパク質が繊維状につながったアクチン繊維です。アクチンの一つの分子の形は球状(厳密には、少し首をかしげた達磨さんのような形)ですが、これがつながって繊維状になります。
アクチン繊維には方向性があり、アクチン分子がつながりやすい、すなわち、アクチン繊維がよく伸びる方の端をプラス端、それと反対側の端をマイナス端とよびます。ATPを分解しながらアクチン繊維に沿って滑るミオシンは、マイナス端からプラス端へ向かう方向にしか滑ることができません。このことにより、原形質流動の方向が決まります。
光学顕微鏡でみると、葉緑体は細胞壁に沿って動いているようにみえます。しかし、細胞壁は細胞膜の外側で、葉緑体が存在する細胞質は、細胞膜の内側にあります。多くの場合、原形質流動の軌道であるアクチン繊維は、細胞膜のすぐ内側にあります。このため、葉緑体が細胞壁に沿って動いているようにみえるわけです。
葉緑体が方向転換したのは、細胞膜のすぐ内側に、たまたま方向性の異なるアクチン繊維が並んでいる場所があって、その場所では原形質流動が反対方向に起こるため、そこにさしかかった葉緑体が方向転換したようにみえたのだと思われます。
最後に、自分の質問を「変な質問」と考える必要は全くありません。自分が抱いた質問に対する答えを何とかして探し出すことは大事なことですが、自然を素直な目でみて、いろいろな質問をどんどん思い浮かべることは、もっと大事なことだと思います。そのことによって科学は発展します。

参考書:「細胞の運動」(神谷律、丸山工作)培風館

高木 慎吾(大阪大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2007-06-25
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