一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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孔辺細胞内の物質について

質問者:   大学院生   クマネズミ
登録番号1312   登録日:2007-06-18
現在気孔の観察をしていますが、孔辺細胞内の物質の定量をすることになりました。植物の他の細胞に比べ、孔辺細胞内にはリンゴ酸が大量にあり、気孔の開閉時にはイオンの流入があると本等に書かれておりますが、孔辺細胞内にのみ特異的に存在する物質というものはあるのでしょうか?自分なりに文献検索等行ったのですが明確な解答が得られませんでしたので、専門家の先生にお伺いしたくメールさせていただきました。よろしくお願いいたします。
クマネズミ さま

気孔の開閉に関与している孔辺細胞に含まれる成分に関するご質問ですが、気孔の開閉については、この日本植物生理学会のホームページ、「みんなのひろば」の「植物科学のトピックス」に、木下俊則先生が、「気孔の働きと開閉の仕組み」と題して最新のデータに基づいた解説を書いておられます。ここには参考書も記されていますので、詳しいことはそれらをご覧下さい。また、本質問コーナーでも気孔のキーワードで索引すれば、気孔が植物のいろんな面にどのように関係しているか、20の項目についての質問―回答がありますので、それらもご覧下さい。

植物は時々刻々変動する環境条件の中で生きていくため、気孔の開閉によって蒸散作用による葉の温度調節、水の根からの吸収、光合成に伴う二酸化炭素の吸収、酸素の排出を制御しています。そのため環境の変動によって気孔の開閉は、植物に都合のよいように巧妙にコントロールされています。土壌の水が利用できるか、太陽光の照度、葉の周りの温度や二酸化炭素濃度、などによって孔辺細胞にカリウム・イオンが吸収、排出され、それに伴う水の孔辺細胞への吸収、排出による孔辺細胞の体積の大きさの増、減によって気孔が開いたり、閉じたりします。カリウム・イオンの孔辺細胞への吸収や排出が、どのような細胞シグナルによって生ずるかについては、上記の解説をご覧下さい。カリウム・イオンの吸収に伴ない孔辺細胞のカチオンが増加するため、ご質問にあるようにリンゴ酸が合成されイオン・バランスを保ちます。リンゴ酸の代わりに、塩素・イオンの吸収促進によってイオン・バランスを保つ場合もあります。また、カリウム・イオンは孔辺細胞の浸透圧を調節する主要な成分ですが、光合成が充分進行できる場合は、ショ糖がその代わりをすることもあります。これらの孔辺細胞の主要成分の変動によって、気孔が開閉するため、主要成分の吸収、排出の機構が詳しく研究されています。カリウム・イオン、塩素・イオン、リンゴ酸、ショ糖は植物細胞に普遍的に見られる成分であり、孔辺細胞のみに特有の成分はこれまでに見つかっていません。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2007-06-21