一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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炭酸ガス削減

質問者:   会社員   陽介
登録番号1315   登録日:2007-06-22
環境問題が謳われている中で、CO2排出対策として「炭酸ガス削減効果が高い植物」を探しております。①より多くの炭酸ガスを取り入れ、酸素を排出する植物、②「炭酸ガスを酸素ガスに効率良く変換できる植物」があれば、是非とも教えて頂きたく存じます。よろしくお願い致します。
陽介 様

本コーナーに質問をありがとうございました。
光合成においては、通常、炭酸ガス(二酸化炭素)の吸収と酸素の発生はほぼ見合っておりますので、ここでは、昼夜のサイクルをも考慮に入れて、光合成生産の高い植物を探すことになりますね。ご質問には、遺伝子工学の手法で高い光合成活性をもつ植物を創生することを目的とした研究に従事されている奈良先端科学技術大学院大学の横田明穂先生からご回答をいただきました。ご参考にして下さい。

佐藤 公行(JSPPサイエンスアドバイザー)

(横田先生の回答)

ご質問の“CO2排出対策として「炭酸ガス削減効果が高い植物」”となりますと、自然環境下での炭酸ガス固定能力が高い植物ということになると思います。

植物の光合成には、次の(1)-(3)の3つのタイプの炭酸ガス取り込み方法が知られています。
(1) イネ、コムギ、タバコ、モミジ、ホウレンソウ、レタス、サクラ、ウメなど多くの作物が炭酸ガスを取り込む方法で、葉の気孔(大気とガス交換するための植物葉の器官)を経て光合成細胞に入ってきた炭酸ガスを、直接に砂糖やデンプン合成のもとになる前駆体に変えるタイプのものです。無機の炭素化合物である炭酸ガスをこの前駆体に変える酵素はルビスコと呼ばれていますが、ルビスコは炭酸ガスを効率よく捕まえる能力にやや欠けています。このタイプの植物をC3植物と呼んでいます。

(2) トウモロコシやサトウキビに代表される一群の植物です。これらの植物ではルビスコの能力を補うために、大気中の炭酸ガスをルビスコの周りに濃縮する能力を持っており、高い光合成速度を出せます。これらの植物をC4植物と呼んでいます。

(3) サボテンなどの多肉植物が行なう光合成です。あまり光合成の速度は高くないので、ここでは議論しません。

ところで、十分水遣りされている状態で、日光が十分な日に、これら(1)と(2のタイプの植物を畑で光合成の競争をさせると、一般的に言って、(2)のタイプの
植物(C4植物)の光合成(炭酸ガスの取り込みと酸素の放出)が、(1)のタイプの植物(C3植物)に勝ります。

例外があります。ヒマワリはC3植物に属するものですが、ほとんどC4植物に匹敵するか、それに勝る光合成速度を示します。30年ほど前にイギリスの研究者がこの秘密を解き明かそうとして、ホウレンソウなどの他のC3植物とヒマワリの光合成組織の細胞をバラバラにし、光合成に関わる酵素類の活性を個別に測定して比較すると、両者に何の違いも見出せないことが明らかになり、科学論文に発表しました。

C3植物にはもっと変わったものがあります。アメリカ南西部の砂漠地帯デスバレーに自生しているカミソニアの一種です。この植物は春先に雨が降った直後に発芽し、1,2ヶ月で結実して乾燥に強い種子を残します。雨後に急速に生育するために、この植物はとてつもない速度で光合成をします。ほとんど無駄のない理想形の光合成に近く、葉に当たった光はほとんど無駄なく炭酸ガスの取り込みと酸素の放出に使われているようです。光合成速度の大きいC4植物もまったく比較になりません。世界の何人かの研究者がその秘密を解き明かそうと試みたとのことですが、まだその理由はわかりません。自然の生態系には非常に面白い植物が含まれており、植物生理研究の宝庫です。

本質問に関連した最近の話題はバイオ燃料の問題ですが、このことについては再質問がありましたらお答えすることにします。
奈良先端科学技術大学院大学・バイオサイエンス研究科
横田 明穂
回答日:2007-06-25
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