一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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電照菊における光中断の最適時間について

質問者:   教員   147
登録番号1328   登録日:2007-06-30
 高校で生物を教えております。教科書には、「短日植物に光中断を施すと、十分な暗期が得られないために花芽形成が起こらない。たった数分間の光中断で、この効果が現れる」といった記述が見られます。しかし、電照菊栽培の現場では、数時間照明をあてていると聞きます。
 数分間の光中断では品質にばらつきが出るため、やはり数時間光をあてる必要があるのでしょうか?それとも、ただムダに照明をつけているだけなのでしょうか?電照菊における光中断の最適時間とともに教えていただけると幸いです。よろしくお願いします。
147様

京都大学大学院農学研究科蔬菜花卉園芸学分野の林孝洋先生に、現場での具体的な例を含めて丁寧な回答をいただきました。参考にしてください。エネルギーと設備のコスト計算は大切なファクターですが、さまざまな光源の開発も進んでいますので、今後、有効な波長の光を効率よく照射するという展開があるかもしれません。

ご質問ありがとうございます.光中断を実際栽培の技術論まで視野に入れてお考え頂いていることに,園芸学の研究者として大変うれしく思います.
光中断には照明の長さだけでなく,強さ(明るさ)も要因として影響します.すなわち,暗期の中断は,強い光であれば短時間でよく,弱い光であれば長時間を必要とします.キクを材料にしたCatheyとBorthwickの研究(1964)では,6,000lxの光を暗期の真ん中に1分間与えるだけで光中断の効果が現れています.一方,電照ギクの営利生産では,実用上50lxを目処に光を照射しています(ただし,挿し穂を採る親株など,確実に花芽分化を抑制したい場合は100lx以上の光で照明します).50lx程度の弱い光では,光中断は2〜4時間の照明が必要となります.栽培面積の大きい営利生産では,どれくらいの間隔で電球(白熱灯)を吊すかがコスト面で問題になります.現場では電球とソケットの数を少なくするため,光中断の効果があるギリギリの照度(50lx)で照明するのがふつうです.以上,教科書に書かれている「数分間」は強い光の下で言えることで,現場では光が弱いために数時間照射しています.
電照ギクにおける光中断の好適時間は,同じ50lxの明るさでも,季節によって変化します.上で2〜4時間と書いたのはそのためです.相対的に高温で長日の8月〜9月では2時間程度の照明で十分ですが,低温短日で生殖的傾向が強くなる11月〜1月では少なくとも4時間照射しないと花芽分化を完全には阻止できません.アクセル(花成刺激)とブレーキ(光中断)のように考えれば,アクセルの弱い初秋ではブレーキは軽くてすみ,アクセルの強い秋冬季ではブレーキも強くなくてはならないということでしょうか.

林 孝洋(京都大学大学院農学研究科蔬菜花卉園芸学研究室)
JSPP広報委員長、京都大学
河内 孝之
回答日:2007-07-26
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