質問者:
大学生
もぐもぐ
登録番号1331
登録日:2007-07-06
植物の葉の断面を観察する機会があり、葉の表と裏で表皮の厚さに違いがでるのは何故なのか、気になりました。また、表皮の厚さは、種や陽葉と陰葉でも、表と裏で違ってくるのでしょうか。
みんなのひろば
葉の表と裏の表皮の厚さ
もぐもぐ 様
みんなのひろばへのご質問ありがとうございました。私の不注意からお返事が大変遅くなってしまい、申し訳ございませんでした。頂いたご質問の回答を東京大学の寺島一郎先生にお願いいたしましたところ、以下のような写真付きの詳しいご回答をお寄せ下さいました。写真はみんなの広場に掲載できませんが、もぐもぐ様にはお届けします。
寺島先生のご回答
葉の表皮は葉の表面を覆う細胞層で、通常は細胞が一層ですが、何層かにおよぶ多層表皮をもつ植物(たとえばブナ科スダジイ属のスダジイ)もあります。
すでに観察をされ、表側の表皮の方が厚かったとのことですが、私も、私たちが撮った写真や、何冊かの教科書の写真や線画を見てみました。たとえば、ブナ科コナラ属の常緑樹のアラカシは明らかに表側の表皮が厚く、落葉樹コナラについてもやや表側が厚いようです。アラカシの場合、細胞そのものの大きさや厚さも違うようですね。一方、ブナ科ブナ属のブナやイヌブナでは葉の表側と裏側の細胞そのものの厚さにはそれほど違いがないようです。違うのは黒く見える細胞壁とその外側にぼんやりと見えるクチクラ層で、ともに表側がかなり厚くなっています。陽葉が陰葉よりも厚いのはよく知られていますが、表皮についてもそのようです。陰葉でも表側の表皮の方がやや厚いですね。アカザ科の草本植物シロザについても細胞そのものの大きさにはそれほどの違いはないですが、細胞壁やクチクラは表側表皮の方が厚いようです。
教科書には、表皮の細胞壁やクチクラは水生植物(hydrophyte)で薄く、乾生植物(xerophyte)で厚く、中生植物(mesophyte)ではその中間とあります。表側と裏側の表皮細胞を比べた記述は私が参考にした教科書には見当たりませんが、表側表皮の方が厚く、それは細胞そのものの大きさに依存する場合もあるが、細胞のサイズそのものではなく細胞壁やクチクラ層の厚さによる場合もあるとまとめることができそうです。
また、乾燥条件で展開した葉の表皮細胞どうしの境界は波状にくい込みますが、湿潤な条件では細胞はお互いにくいこまず境界はすなおな線になります。表側表皮と裏側表皮を比べると表側の方がよりくい込む傾向にあります。ちなみに、最初に述べたスダジイの葉では表側表皮は細胞層2層に多層化しますが、裏側は一層です。陽葉と陰葉とでは、陽葉の表皮の方が厚く、細胞同士がくい込みやすいといえそうです。
光が強い条件にある陽葉の表皮、一枚の葉のなかでは表側の表皮、の細胞壁やクチクラ層が厚くなるのは、乾燥条件の厳しさと関係しているようです。また、表側表皮の方が機械的ストレスにさらされやすいでしょうから、その意味でも表皮の厚さが違うことに意味があると思います。
なお、イネ科植物の表側表皮には機動細胞(motor cell あるいはbulliform cell)と呼ばれる大きな細胞が並んでいて、乾燥条件下でこれらの細胞の膨圧が下がると葉が巻いて蒸散面積を小さくすることなどに役立っています。
余談ですが、クチクラの英語はcuticle, キューティクルと発音します。クチクラと言っても絶対に通じません。
参考書:
K. Esau (1977) Anatomy of Seed Plants. J. Wiley
K. Esau (1965) Plant Anatomy 2nd ed. J. Wiley など
写真提供
寺島一郎(ブナ、イヌブナ)、
齋藤隆実(アラカシ、コナラ、東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻)、
矢野覚士(シロザ、基礎生物学研究所)
寺島 一郎(東京大学)
みんなのひろばへのご質問ありがとうございました。私の不注意からお返事が大変遅くなってしまい、申し訳ございませんでした。頂いたご質問の回答を東京大学の寺島一郎先生にお願いいたしましたところ、以下のような写真付きの詳しいご回答をお寄せ下さいました。写真はみんなの広場に掲載できませんが、もぐもぐ様にはお届けします。
寺島先生のご回答
葉の表皮は葉の表面を覆う細胞層で、通常は細胞が一層ですが、何層かにおよぶ多層表皮をもつ植物(たとえばブナ科スダジイ属のスダジイ)もあります。
すでに観察をされ、表側の表皮の方が厚かったとのことですが、私も、私たちが撮った写真や、何冊かの教科書の写真や線画を見てみました。たとえば、ブナ科コナラ属の常緑樹のアラカシは明らかに表側の表皮が厚く、落葉樹コナラについてもやや表側が厚いようです。アラカシの場合、細胞そのものの大きさや厚さも違うようですね。一方、ブナ科ブナ属のブナやイヌブナでは葉の表側と裏側の細胞そのものの厚さにはそれほど違いがないようです。違うのは黒く見える細胞壁とその外側にぼんやりと見えるクチクラ層で、ともに表側がかなり厚くなっています。陽葉が陰葉よりも厚いのはよく知られていますが、表皮についてもそのようです。陰葉でも表側の表皮の方がやや厚いですね。アカザ科の草本植物シロザについても細胞そのものの大きさにはそれほどの違いはないですが、細胞壁やクチクラは表側表皮の方が厚いようです。
教科書には、表皮の細胞壁やクチクラは水生植物(hydrophyte)で薄く、乾生植物(xerophyte)で厚く、中生植物(mesophyte)ではその中間とあります。表側と裏側の表皮細胞を比べた記述は私が参考にした教科書には見当たりませんが、表側表皮の方が厚く、それは細胞そのものの大きさに依存する場合もあるが、細胞のサイズそのものではなく細胞壁やクチクラ層の厚さによる場合もあるとまとめることができそうです。
また、乾燥条件で展開した葉の表皮細胞どうしの境界は波状にくい込みますが、湿潤な条件では細胞はお互いにくいこまず境界はすなおな線になります。表側表皮と裏側表皮を比べると表側の方がよりくい込む傾向にあります。ちなみに、最初に述べたスダジイの葉では表側表皮は細胞層2層に多層化しますが、裏側は一層です。陽葉と陰葉とでは、陽葉の表皮の方が厚く、細胞同士がくい込みやすいといえそうです。
光が強い条件にある陽葉の表皮、一枚の葉のなかでは表側の表皮、の細胞壁やクチクラ層が厚くなるのは、乾燥条件の厳しさと関係しているようです。また、表側表皮の方が機械的ストレスにさらされやすいでしょうから、その意味でも表皮の厚さが違うことに意味があると思います。
なお、イネ科植物の表側表皮には機動細胞(motor cell あるいはbulliform cell)と呼ばれる大きな細胞が並んでいて、乾燥条件下でこれらの細胞の膨圧が下がると葉が巻いて蒸散面積を小さくすることなどに役立っています。
余談ですが、クチクラの英語はcuticle, キューティクルと発音します。クチクラと言っても絶対に通じません。
参考書:
K. Esau (1977) Anatomy of Seed Plants. J. Wiley
K. Esau (1965) Plant Anatomy 2nd ed. J. Wiley など
写真提供
寺島一郎(ブナ、イヌブナ)、
齋藤隆実(アラカシ、コナラ、東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻)、
矢野覚士(シロザ、基礎生物学研究所)
寺島 一郎(東京大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2008-01-31
柴岡 弘郎
回答日:2008-01-31