一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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マツの幹肌の変異について

質問者:   自営業   星の王子
登録番号1355   登録日:2007-07-26
アカマツの幹肌が地上から3〜4m程度のところまでは黒っぽく、そこから上は赤灰色っぽくなっています。そして、黒っぽくなっているところは剥がれにくく、赤灰色っぽくなっているところは鱗片状に剥がれやすくなっています。同じ樹木でありながらある線を境にして下と上でどうして性質がこれほど違うのか疑問です。剥がれやすい樹皮のところと剥がれにくいところでは樹皮内の篩部や形成層などの生きた細胞への日照の影響などは変化があるのでしょうか?宜しくお願いします。
星の王子さま

一ケ月以上もお待たせしてしまいました。どうも済みません。いろいろと調べておられ、回答が遅くなったようです。東京農工大学の船田先生から以下のような詳しい解説を頂くことが出来ましたので、お届けします。少し専門的かも知れませんが、参考にして下さい。樹皮の色に付いても、調査中です。これについて回答が頂けたら、追加としてお届けします。

長い期間生育する樹木の樹皮は、内樹皮と外樹皮に分けることができます。内樹皮は、維管束形成層が分裂してつくる二次篩部を指します。アカマツのような樹木の二次篩部は、数年以上生命活動を維持して、光合成同化産物の転流や物質の貯蔵などの機能を担います。しかしながら、二次篩部を構成する柔細胞の一部が分裂能力を獲得してコルク形成層になると、コルク形成層は内側にコルク皮層をつくり、外側にコルク組織をつくります。コルク形成層は維管束形成層と異なり寿命が非常に短く、またコルク組織より外側の二次篩部も死細胞となるため、コルク皮層より外側は死細胞の集まりとなります。この死細胞の集合体を、外樹皮と呼びます。したがって、私達が樹木の外側から見ることのできる樹皮は、外樹皮です。アカマツのコルク形成層は、樹幹の接線方向(樹幹の円周方向)につながっていないので、外樹皮は皿状に配列し、樹皮の表面に凹凸ができます。

アカマツでは、内樹皮の厚さの樹幹の地上高による差は、地際部位や樹幹の先端部位を除いてほとんどありません。それに対し、外樹皮の厚さは樹幹の地上高により異なり、地上高が高い方が減少します。これは、地上高の違いにより、外樹皮の剥がれやすさが異なるためと考えられます。樹木は、維管束形成層の活発な分裂により多くの二次木部をつくり、樹幹の外側に向かって肥大成長するため、樹幹の円周も大きく拡大します。外樹皮は、二次木部の肥大成長に伴い外側に押し出され、樹幹の円周の拡大により接線方向に強い応力を受けると考えられます。地上高の高いところでは樹幹の直径がまだ小さく、活発な肥大成長によって、より速く円周が拡大します。そのため、死んだ細胞の集まりである外樹皮内に亀裂が生じやすく、樹皮は次々に剥がれていきます。その結果、比較的新しい外樹皮が樹幹の表面に現れるので、地上高の高いところの樹皮は赤っぽい色に見えます。

外樹皮の厚さにより太陽光の透過性は異なると思いますので、篩部や形成層へ到達する太陽光の強さも、地上高の違いにより異なると考えられます。

船田(東京農工大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2007-09-06
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