一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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ゲノム解析で読まれた配列について

質問者:   その他   新垣
登録番号0136   登録日:2004-10-12
いつも楽しく植物生理学会のHPを拝見させて頂いています。
突然ですが、質問させてください。

既にシロイヌナズナの全ゲノム配列が解読されたと聞きました。

他にもヒトのゲノムもほとんど読まれているみたいで、そのことで疑問が生じました。

たとえばシロイヌナズナでも優性遺伝子や劣性遺伝子というものがあると思います。
その場合、ゲノム配列は違うのでしょうか。

なんだかよくわからない質問の仕方ですが

他にはヒトの場合、よく「あなたは親に似ているねぇ。遺伝だねぇ」とか言われるのですが、同じヒトならゲノムは同じじゃないんですか?

ゲノムは同じで、環境によって遺伝子の発現が制御されていると思ったのですが、それだと親からの遺伝とかが説明できませんでした。

つまり、シロイヌナズナならすべてのナズナ間でゲノムが同じなのか?
ヒトならすべてのヒト(少なくとも日本人)でゲノムが同じなのか?

という質問をさせて頂きました。
よろしくお願いいたします。
新垣様

 遺伝子の本体がDNAという物質であることはご存知のことと思います。アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)という塩基を含む4種のヌクレオチドが連なって、DNAを構成しており、この塩基の配列順序(塩基配列)が遺伝情報を担います.同じ「種」であるヒト同士の塩基配列には非常に高い共通性があります.ヒトのゲノムはほぼ全て解読されており、それによりますと自分と他人の塩基配列は99.9%が同じです.つまり0.1%が違っているのですが、これはどのくらいの違いなのでしょうか?ヒトゲノムを構成する塩基数は約30億とされていますので、その0.1%、約300万個の塩基が違っているということになります.300万個の塩基の違いは、ゲノム中に散らばって存在しています.これらの違いは遺伝情報として必ずしも重要でない部分にあったり、遺伝情報に関係する部分にあったとしても生存上大きな影響を与えないもので、「多型」と呼ばれています.生存上大きな影響がないとはいえ、様々な遺伝子における多型の違いと、それに基づくわずかずつの機能の差が、様々な個人個人の差(身長、顔かたち、体質等々)として現れてくるのです.

ヒトと同様他の生物も、遺伝子レベルで見れば個体毎に異なっています.でも分子遺伝学の研究をする際には、この個体毎の差は、実験結果のばらつきを大きくするもとなので、出来るだけ遺伝的にそろった集団を用いて研究を行います.マウス等の実験動物は、近親交配を繰り返して、出来る限り遺伝的にそろった系統(純系)を作って、研究に用います.私が研究に用いているのはシロイヌナズナですが、これは自家受粉して(つまり自分自身のおしべとめしべで交配することが出来る)次世代を作ることが出来る植物です.ですから、容易に純系を得ることができます.現在シロイヌナズナのゲノム情報として公開されているものは、ある一つの純系統のDNAの塩基配列ですが、系統の異なるシロイヌナズナとは、やはり非常に多くの多型があることが知られています.実際に、系統が違えば見かけや花の咲く時期にかなりの差が見られます.

参考文献:「分子遺伝学講義中継 Part 1」井出利憲 著  羊土社
奈良先端科学技術大学院大学
森田(寺尾)美代
回答日:2008-07-10
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