一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

チェックリストに保存

植物って夜も光を当てたほうがいいの?

質問者:   小学生   ももちゃん
登録番号1401   登録日:2007-08-24
街灯の下の稲が大きく生長しているのに、農家の人は「街灯を消してくれ。」と言っているのを聞き、不思議に思いました。そこで2本のオクラの苗を使い、日中は同じ条件で夜になるとひとつは蛍光灯の下に置き、もう一方は、ダンボールで覆い、真っ暗にして3週間観察しました。結果は予想とは違い、暗いほうが大きく生長しました。そこで、①なぜ、暗いほうが大きく生長したのか?②なぜ、街灯の下の稲は大きく生長するのか?③なぜ、街灯を消した方が良いのか?④なぜ、苺ハウスは夜も明るくしているのか?教えてください。
ももちゃん さん

回答が遅くなってすみません。
ご質問には、筑波にある農業生物資源研究所で植物の生育におよぼす光の影響について研究されている井澤 毅博士が大変詳しくお答え下さいました。ご参考にして下さい。なお、オクラの実験では、ただ2本の苗を使い、1本は蛍光灯の下におき、他の1本はダンボールで覆っていますね。それぞれの条件で1本だけの個体が用いられているので、心配することの一つは、個体による差が出たのか知れないということです。
せめて数本のオクラを用いて比べてみて下さい。

(井澤 毅博士からの回答)
興味深い質問をありがとうございます。また、オクラを使った実験面白いですね。
実は、私たちは、現在、イネに関して、似た実験を行っています。1日10時間だけ光を当てる短日条件と14.5時間光を当てる長日条件でのイネの生長の違いを調べています。確かに日の長いほうがよく生長するようですね。植物体が明らかに大きくなります。この違いの多くは、「光合成」によるものだと考えられます。光合成というのは、光の力(エネルギー)を、自分が大きくなるのに使えるエネルギー(例えば、糖やATPといった化学物質に含まれるエネルギー)に変える能力のことです。植物だけがもつ能力です。 つまり、長く光を受けたほうが、たくさんのエネルギーを作ることができて、植物体が大きくなるわけです。(②の答え)

ただ、それ以外の変化もあります。例えば、長日条件では茎の数が増えます。これは、単純に光合成の影響だけとはいえない変化です。
また、一番大きな変化は、開花(花が咲くこと)のタイミングへの影響です。短日条件と長日条件で、普通の品種は、1ヶ月以上、開花時期に差がうまれてきます。農家の人が、街灯を消してくれといったのは、この開花時期が変わって、おコメの収穫に適した時期がずれることを嫌がってのことだと思います。田んぼの一部だけ、なかなか花が咲かなくて、実る時期が変わったら困りますよね。(③の答え)

このような、日の長さを感じる能力を「光周性」と呼びます。また、秋になると日が短くなってきますが、日が短くなるのを感じて、花が咲きやすくなる植物を「短日植物」といいます。イチゴも短日植物で、短日条件の方が花の芽ができやすくなります。また、イチゴは温度が低いと花の芽ができやすくなるそうです。ですから、イチゴは、前の年の秋に花芽がついて、冬を越して、春になると、その花芽が大きくなって、花が咲き、実をつけます。ハウスでの栽培は、一年中イチゴを育てることができますが、日の短い冬に育てると、植物が大きくなる前に、花芽がついて、小さな実が少しだけ取れるような状態になります。農家の人がハウスを夜も明るくするのは、花芽ができにくい状態を人工的に作って、植物体を大きくして、大きな立派なイチゴの実を沢山つけるための土台を作っているのです。当然、植物体が充分大きくなったら、花芽をつけるために、しばらくの間、短日条件や低温条件にして(秋や冬に近い状態にする)、その後、また、日を長くして(夜に光をつけて、春に近い状態する)、開花させ、実をつけるように工夫しているはずです。(④の答え)

さて、最後にオクラの実験ですが、光合成そのものは、光があれば、その分、たくさんのエネルギーをつくることができます。ですから、基本的には、日が長いほうが、植物体は大きくなるはずです。ですから、オクラの結果は、専門家にとっても不思議な結果です。もし、同じ実験を繰り返しても、同じ結果になるのであれば、いくつかの原因が考えられます。
ひとつは、植物は暗い方が伸びやすい性質があります。もやしがそうですよね。ですから、大きくなったのではなく、伸びただけかもしれません。これは、植物体を乾燥させて重さを量ってやればわかります。
次に、一日中光をあてたことで、 光合成能力が下がった可能性があります。光が弱い状態で植物を育てたとして、その時に低温であったり、湿度が高かったりというストレスが加わると生育不良を起こす植物があることが知られています。
もうひとつの可能性が、「生物時計」の狂いです。人間も植物も、太陽が昇って沈む一日のリズムに合わせて生きています。つまり、夜が暗くなることに合わせて効率的に生きるしくみを持っています。そして、このリズムをコントロールしているのが生物時計というしくみです。2、3日の間、光が来なくても、大きな影響はないようになっていますが、今回の実験のように3週間も光にあてつづけると大きな狂いが出てくる可能性があります。その場合、光合成で効率的にエネルギーをつくることができなくなります。この場合、ダンボールで覆った方と蛍光灯で補光した方のどちらが、自然に育てたオクラより大きいのかを調べると、はっきりしてきます。補光したほうが小さくなっているのであれば、生物時計の狂いや光合成能力の低下が原因と考えられます。(①の答え)

オクラの実験面白いので、さらにいろいろと試してみてください。例えば、蛍光灯で光を与えたとして、寝る直前に蛍光灯を消して、一日のリズムだけはしっかり与えてみた場合と比較してみたりすると面白いですね。

井澤 毅(農業生物資源研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2007-09-06