一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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多細胞生物と細胞群体の違い

質問者:   中学生   Anne
登録番号1413   登録日:2007-09-01
学校での勉強で不思議に思ったことなのですが、なぜアオミドロなどは多細胞生物と呼ばれるのに、イカダモ、クンショウモ、ボルボックスなどは細胞群体と呼ばれるのかがどうしてもわかりません。植物プランクトンの事もここで質問してもよいのかはわかりませんが、どうか教えていただけないでしょうか。
Anne さま

みんなのひろばへのご質問ありがとうございました。頂いたご質問の回答を京都大学の幡野恭子先生にお願いいたしましたところ以下のような詳しい回答をお寄せ下さいました。しっかりと勉強して下さい。また幡野先生がおっしゃっておらるように、出来たら、水中で生活している小さな藻類の観察もしてみて下さい。

幡野先生のご回答
ご質問いただいたイカダモ、クンショウモ、ボルボックスのような細胞群体は、原則として一定数の細胞から構成されており、定数群体と呼ばれています。親と同形の子どもの群体の作り方に注目して、定数群体の特徴を考えてみましょう。

イカダモやクンショウモが増える時には、親群体の個々の細胞の中で、親個体と同数の細胞がつくられ、これらが親と同じ形につながり、子どもの小さな群体となります。
いったん子どもの群体ができると、それぞれの細胞は大きくなりますが、孫の群体をつくるまで分裂することはなく、個体の成長の過程で細胞数や形は変化しません。

ボルボックスの群体は、多数の体細胞と呼ばれる小形の細胞(種により500〜50000個)と、少数の生殖細胞と呼ばれて子どもの群体のもとになる大形の細胞(種により2〜60個)からできています。このうち生殖細胞が分裂し、親の群体と同じ数の細胞でできた中空の球となり、この中空の球が裏返って、子どもの群体が形成されます。子どもの群体にはすでに孫の群体となる生殖細胞もつくられています。ボルボックスの体細胞は、次の子どもの群体が形成されるまで大きさを増しますが、細胞分裂は行いません。したがって個体中の体細胞の数は変化しません。ボルボックスではひとつの群体の中に、体細胞と生殖細胞という形態的や機能的に分化した2種類の細胞が見られ、生物の進化や多細胞化を考える上で興味深い生物といえます。

ところで、アオミドロは細胞が1列につながった多細胞体制の藻類です。アオミドロの体細胞分裂では、円筒形の細胞の中央で核分裂がおこり、隔壁が形成されます。1細胞は約半分の長さの2細胞となり、それぞれが成長し糸状の個体全体が伸長します。糸状の1個体中の細胞数は一定ではありません。

以上のように、定数群体では、親群体の細胞の中で親と同様の子どもの群体が作られ、その後、個体の形や細胞数が一定であるという特徴があります。生物の分類学上では、イカダモやクンショウモは緑色植物門緑藻網のヨコワミドロ目、ボルボックスは緑藻網のオオヒゲマワリ目に属しており、これらの生物群では他にも定数群体が見られます。アオミドロは緑色植物門シャジク藻網接合藻目に属し、定数群体を含む分類群とは異なっています。湖沼のプランクトンであるサヤツナギやウログレナ(黄色植物門黄金色藻綱)、ヨツメモ(緑藻綱)などのように、同形同大の個体が殻や細胞間物質などにより接着し、単に寄り集まって生息している群体(偽群体もと呼ばれます)もいます。

教科書の写真や図の中の藻類はあるひとときの姿です。この機会に水中で浮遊生活している小さな藻類たちの生き方や一生に関心をもっていただければ嬉しく思います。

幡野 恭子(京都大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2007-09-22
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