質問者:
高校生
たね
登録番号1414
登録日:2007-09-01
アブシジン酸が発芽抑制効果があるそうですが、タマネギやチューリップの球根を使って本当に抑制効果があるか実験したいと思います。その際、アブシジン酸の濃度はどの程度が適切でしょうか?またスプレーで散布すべきか、浸漬するなら球根を何時間ほどすべきか、温度はどの程度がよいのかアドバイスをお願いします。また同じ実験材料を使ってジベレリンで逆に生長促進をさせる実験での濃度や時間、方法を教えてください。また実験するには自然に発芽するどの程度前に処理すると良いと思いますか?ご指導お願いしたします。
みんなのひろば
発芽抑制のホルモン濃度について
たね さん:
日本植物生理学会 みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
アブシシン酸(以下ABAと言います)の発芽抑制効果をご自分で実験的に調べ、体験しようとの計画はたいへん面白い企画だと思います。材料植物にはタマネギとチューリップの「球根」を使いたいとのことですが、どうしてでしょうか?このような試験に適当なものとは言えません。ダイコン、レタスなどの野菜の種子発芽で調べれば、はるかに簡単にできるのですが。
どうしてもタマネギ、チューリップを使いたいというのであれば、材料の性質から方法が簡単ではなく、調べ方にも注意をすることを覚悟して下さい。付け足しですが、「球根」という言葉は植物学用語でなく、ほぼ球(塊)状にふくらんだ地下の根、葉、茎などで栄養繁殖に使われる部分を指す園芸用語です。タマネギ、チューリップの「球根」と言っている部分は「鱗茎」(短い茎の周りにたくさんの肥厚した葉がついているもの)といいます。芽にあたる部分は短い茎の先端にあって、厚い葉で囲まれています。鱗茎の下側には短い茎の底が見え、古い乾燥した根がついていることがあります。鱗茎を土に埋める(鱗茎に水を与える)と、まず根が出てきます。底の茎の周りから、太いひげのようにたくさん出てきます。それから、しばらくすると芽、つまり葉が鱗茎を破るように出てきます。また、タマネギ、チューリップなどの鱗茎の多くは、水を与えなくても適当な温度のおいておくと、根が出ないで葉が出てくることがあります。根が出るところは乾燥していても、芽は水をたっぷり含んだ肥厚した貯蔵葉に囲まれていて乾燥しないからです。これも「発芽」と言えます。さて、たね さんは、どれを「発芽した」と判定しますか。まずこれを決めなければなりません。多くの種子ではまず根が殻を破って出てきます。このとき「発芽した」と判定しています。しかし、タマネギやチューリップの鱗茎では根が出ると「発根した」、葉が顔を出したとき「発芽した」と、ふつうは言いますが、種子と同じ考えで、根が出てきたときを「発芽した」と判定しても構わないと思います。「発芽」を調べる方法、判定の仕方によってABAの与え方や濃度を変える必要があります。
比較的早く、安定した結果を得ようとするならば、球根類の水耕栽培法を使うのがよいかもしれません。鱗茎の底の部分だけを水に浸しておいて、発根したら「発芽した」と判定する方法です。ABAは購入されるのでしょうが、ABA水溶液に鱗茎の底の部分を浸し、暗いところにおいておきます。毎日、決まった時間に「発根」したかどうかを調べ、そのときの、ABA濃度、発根した根の数、試験開始から発根するまでの時間(日数)などを記録します。ABAの濃度は、0.0、0.3、3.0、30、100.0ppmをまず調べるところからはじめたらよいと思います。発芽するかしないか、発芽するが、水に比べてどのくらい発芽が遅れるか、などのデータを集めて、ABAの効果を評価します。どの濃度でも発芽しなかったら、もっと薄い濃度のABAを使って調べます。また、全部の試験溶液で発芽してしまったら、もっと濃度の高いABA溶液で調べます。1つの濃度で鱗茎3個は試験した方がよいので、1種の鱗茎に少なくとも3x(調べるABA試験液濃度の数)個の揃った容器を用意しなければなりません。球根類水耕栽培用のひょうたん型の容器を買ってくれば簡単ですが、アイスクリームカップ(ホームセンター、食品問屋スーパーといったところで売っています)や500mlのペットボトル、牛乳パックの底を5cmくらいの高さに切り取ったものでも利用できると思います。その中に、ABA水溶液を一定量入れ、鱗茎の底が浸るようにセットします。このとき、容器の中に落ちないように、鱗茎に楊子などを刺して支える裏技がありますが、これは絶対にいけません。傷をつけると植物の反応が変わってしまいますので。鱗茎をセットした容器を、大きな段ボール箱などにまとめていれ、蓋をすれば簡単な暗箱になります。毎日、鱗茎を持ち上げても構いませんから、根が出たかどうか、出るなら何本が何日目に出てきたかを記録して下さい。また、葉が出てくるかどうかを調べるのなら、そのまま1ヶ月くらいおくことになります。この実験法で、大変困ったことが一つあります。それは、水、あるいは水に接した部分にカビなど微生物が繁殖することです。それを避けるために、様子を見ながら適宜、試験液を取り替えることが必要でしょう。
タマネギ、チューリップを使ってジベレリンの成長促進作用を調べるのは、もっと時間がかかり、困難と思われます。ジベレリンは茎の伸長を促進しますので、発芽してまず葉が伸びる植物では茎の芽が下の方にありますので、それらが見えるようになってからジベレリン溶液を滴下するしかよい方法はないと思います。
さて、最後の「自然に発芽するどの程度前に処理すると良いと思いますか?」ですが、これもお答えするのがたいへん難しいものです。どちらも、収穫直後は休眠状態にあります。この休眠が破れる時間、条件などは品種によっても違いますし、産地、収穫時期、収穫後の保存状態、処理の有無など入手するまでの経緯が分からないと、判断できないからです。この試験では、チューリップの花を観賞するのが目的ではありませんので、10月以降の鱗茎なら使えると思います。タマネギには春まき(主に東北、北海道など、8月前後に収穫)と秋まき(中部、西日本など、5月頃収穫)などがありますので、一般論としてはお答えできません。
日本植物生理学会 みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
アブシシン酸(以下ABAと言います)の発芽抑制効果をご自分で実験的に調べ、体験しようとの計画はたいへん面白い企画だと思います。材料植物にはタマネギとチューリップの「球根」を使いたいとのことですが、どうしてでしょうか?このような試験に適当なものとは言えません。ダイコン、レタスなどの野菜の種子発芽で調べれば、はるかに簡単にできるのですが。
どうしてもタマネギ、チューリップを使いたいというのであれば、材料の性質から方法が簡単ではなく、調べ方にも注意をすることを覚悟して下さい。付け足しですが、「球根」という言葉は植物学用語でなく、ほぼ球(塊)状にふくらんだ地下の根、葉、茎などで栄養繁殖に使われる部分を指す園芸用語です。タマネギ、チューリップの「球根」と言っている部分は「鱗茎」(短い茎の周りにたくさんの肥厚した葉がついているもの)といいます。芽にあたる部分は短い茎の先端にあって、厚い葉で囲まれています。鱗茎の下側には短い茎の底が見え、古い乾燥した根がついていることがあります。鱗茎を土に埋める(鱗茎に水を与える)と、まず根が出てきます。底の茎の周りから、太いひげのようにたくさん出てきます。それから、しばらくすると芽、つまり葉が鱗茎を破るように出てきます。また、タマネギ、チューリップなどの鱗茎の多くは、水を与えなくても適当な温度のおいておくと、根が出ないで葉が出てくることがあります。根が出るところは乾燥していても、芽は水をたっぷり含んだ肥厚した貯蔵葉に囲まれていて乾燥しないからです。これも「発芽」と言えます。さて、たね さんは、どれを「発芽した」と判定しますか。まずこれを決めなければなりません。多くの種子ではまず根が殻を破って出てきます。このとき「発芽した」と判定しています。しかし、タマネギやチューリップの鱗茎では根が出ると「発根した」、葉が顔を出したとき「発芽した」と、ふつうは言いますが、種子と同じ考えで、根が出てきたときを「発芽した」と判定しても構わないと思います。「発芽」を調べる方法、判定の仕方によってABAの与え方や濃度を変える必要があります。
比較的早く、安定した結果を得ようとするならば、球根類の水耕栽培法を使うのがよいかもしれません。鱗茎の底の部分だけを水に浸しておいて、発根したら「発芽した」と判定する方法です。ABAは購入されるのでしょうが、ABA水溶液に鱗茎の底の部分を浸し、暗いところにおいておきます。毎日、決まった時間に「発根」したかどうかを調べ、そのときの、ABA濃度、発根した根の数、試験開始から発根するまでの時間(日数)などを記録します。ABAの濃度は、0.0、0.3、3.0、30、100.0ppmをまず調べるところからはじめたらよいと思います。発芽するかしないか、発芽するが、水に比べてどのくらい発芽が遅れるか、などのデータを集めて、ABAの効果を評価します。どの濃度でも発芽しなかったら、もっと薄い濃度のABAを使って調べます。また、全部の試験溶液で発芽してしまったら、もっと濃度の高いABA溶液で調べます。1つの濃度で鱗茎3個は試験した方がよいので、1種の鱗茎に少なくとも3x(調べるABA試験液濃度の数)個の揃った容器を用意しなければなりません。球根類水耕栽培用のひょうたん型の容器を買ってくれば簡単ですが、アイスクリームカップ(ホームセンター、食品問屋スーパーといったところで売っています)や500mlのペットボトル、牛乳パックの底を5cmくらいの高さに切り取ったものでも利用できると思います。その中に、ABA水溶液を一定量入れ、鱗茎の底が浸るようにセットします。このとき、容器の中に落ちないように、鱗茎に楊子などを刺して支える裏技がありますが、これは絶対にいけません。傷をつけると植物の反応が変わってしまいますので。鱗茎をセットした容器を、大きな段ボール箱などにまとめていれ、蓋をすれば簡単な暗箱になります。毎日、鱗茎を持ち上げても構いませんから、根が出たかどうか、出るなら何本が何日目に出てきたかを記録して下さい。また、葉が出てくるかどうかを調べるのなら、そのまま1ヶ月くらいおくことになります。この実験法で、大変困ったことが一つあります。それは、水、あるいは水に接した部分にカビなど微生物が繁殖することです。それを避けるために、様子を見ながら適宜、試験液を取り替えることが必要でしょう。
タマネギ、チューリップを使ってジベレリンの成長促進作用を調べるのは、もっと時間がかかり、困難と思われます。ジベレリンは茎の伸長を促進しますので、発芽してまず葉が伸びる植物では茎の芽が下の方にありますので、それらが見えるようになってからジベレリン溶液を滴下するしかよい方法はないと思います。
さて、最後の「自然に発芽するどの程度前に処理すると良いと思いますか?」ですが、これもお答えするのがたいへん難しいものです。どちらも、収穫直後は休眠状態にあります。この休眠が破れる時間、条件などは品種によっても違いますし、産地、収穫時期、収穫後の保存状態、処理の有無など入手するまでの経緯が分からないと、判断できないからです。この試験では、チューリップの花を観賞するのが目的ではありませんので、10月以降の鱗茎なら使えると思います。タマネギには春まき(主に東北、北海道など、8月前後に収穫)と秋まき(中部、西日本など、5月頃収穫)などがありますので、一般論としてはお答えできません。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2007-09-06
今関 英雅
回答日:2007-09-06