一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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フェルラ酸について

質問者:   高校生   たね
登録番号1415   登録日:2007-09-01
化粧品にも使われているフェルラ酸は、紫外線吸収効果があるといいます。肌にフェルラ酸入りの化粧をすると紫外線を吸収して肌にあまり届かないようにするものだと思っています。もしフェルラ酸水溶液を植物に吸収させるとどうなると思いますか?フェルラ酸は表皮ではなく細胞内にあるため、紫外線をより植物内に吸収してしまい害が起きそうに思われます。塗るのと吸収させるのでは効果が逆になってしまうのではと考えると面白いので、今度このような実験をしてみたいと思っていますが、アドバイスをください。
たね さま

フェルラ酸は植物には必ず含まれている化合物ですが、一般にその含量は余り高くはありません。フェルラ酸は、セルロースと共に細胞壁の主要な構成成分であるリグニンなどをフェニールアラニンから合成する経路の、多くの中間体の一つです。フェルラ酸の含量がリグニンなどの植物の代謝での最終産物の含量と比べると非常に低いのはそのためです。

フェルラ酸の化学構造はベンゼン環(芳香環ともよびます)をもち、そのため紫外線を吸収する性質をもっています(315 nmが最大)。ヒトの皮膚にフェルラ酸を塗った場合、植物の場合と違ってヒトの細胞でフェルラ酸は代謝、分解されることはないため、紫外線を吸収する性質をもつフェルラ酸は、皮膚の紫外線スクリーンとして役に立つと考えられます。例えば、葉の表面にフェルラ酸を(透明な紫外線を吸収しない)セロファンなどに塗って、葉の細胞にフェルラ酸が入らないようにして太陽光を照射すれば、葉の光合成に対するフェルラ酸の紫外線スクリーン効果を調べることができるでしょう。

茎や根を通してフェルラ酸を(葉の)細胞に吸収させて紫外線の効果を調べれば、どうなるかのご質問ですが、まず、細胞には紫外線を吸収する成分はフェルラ酸以外に、非常に多種類、多量含まれていることです。例えば、上に述べたフェルラ酸を経て合成される細胞壁のリグニンなどは紫外線を吸収し、太陽光からの紫外線が細胞の中に入らないようにする一つのスクリーンとなっています。従って、“細胞内のフェルラ酸によって紫外線がより植物内に吸収される”ようにするためには、フェルラ酸を細胞内含量より余程多量に与えることが必要でしょう。さらに、細胞に吸収させたフェルラ酸はリグニン合成の中間体であるため、細胞内でリグニンなどに代謝されます。そのため、フェルラ酸そのものに対する紫外線の効果を調べるのは困難です。リグニン合成は多種類の反応中間体、酵素が関与する、複雑なネットワークですので、どこに紫外線が作用したかを決めるのも大変困難です。

細胞内でフェルラ酸が紫外線を吸収して何かに変化し、葉の表面でのフェルラ酸の紫外線フィルター効果とは違ったフェルラ酸効果が見られるのではないかとの考えはすばらしいアイデアですが、これを証明するためには、むしろ、フェルラ酸そのものに紫外線を照射してフェルラ酸が変化するかどうか、変化するとすればどのような化合物に変化するかを第一に調べ、その結果を基にして細胞内のフェルラ酸と紫外線の相互作用を考えるのが順序と思います。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2007-09-06
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