一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ニリンソウについて

質問者:   一般   スナフ
登録番号1427   登録日:2007-09-16
春先に家族と山に行って、群生するニリンソウの美しさに、暫し言葉を忘れました。それから随分月日は流れましたが、あの美しさが忘れられず、どうにかして家の庭で育てられないものかと、時を見てネットなどで調べておりました。
しかしながら、ニリンソウが地下茎で増えていくことはわかったのですが、種子植物である限りは、出発点は種からのはずです。ニリンソウの種子は、土の中でどんな風に育成し、どれほどの期間で花をつけるものなのでしょうか。

お忙しい中恐縮ですが、お答え頂ければ幸いです。
スナフ様

質問をありがとうございます。 ニリンソウの花はその柔らかな美しさがなんともいえませんね。私に家の庭にも二株あって、毎春半が咲くのを楽しみにし ています。 このニリンソウの一株はもう25年以上たっています。お調べになったように、地下茎で少しづつ増えてきました。現在は株のサイズは直径40cmくらいでしょうか。他の植物もありますし、特に面倒もみないので、よく生き延びいるとおもいます。もう一つの株は後からは少し離れた場所に育ってきたものです。これは地下茎が伸びて出来たものとは考えられませんので、種子から育ったのかもしれません。ニリンソウの栽培については私は全くわかりませんが、野草を趣味で育てている方や、販売されているいる方は知っておられるかもしれませんね。ここでは、すこし一般的なことを説明しましょう。ニリンソウの種子は他の普通の植物種子と異なる点が二つあります。一つは、この種子はいわゆる「不完全種子」とよばれるものの仲間です。普通の種子は形態的に完熟すると種子の中に完成した胚ができています。胚は子葉、胚軸、幼根の三つの部分からできていて、植物体の子供です。発芽するということはこの胚が成長をはじめることなのです。ところが、不完全種子では、外部形態的に種子ができていても、中の胚の発達が完了していないのです。イチョウとか薬用ニンジンとかランなどいろいろな種でしられています。ニリンソウにつては知りませんが、イチョウの種子(銀杏)は地表に落ちて1っ月位経たないと胚は完成しないようですので、ニリンソウでも、地面に落ちてから発芽出来る種子になるまでには日数がかかるものと思います。二番目に、この種子には先端に白っぽい脂肪質の塊のようなものがくっついていることです。このような構造物はエライオソーム(elaiosome) と呼ばれ、日本語では「種枕」という風流な名称があるようですが、エライオソームが一般的です。エライオソームは植物が自分の種子をアリに遠くへ運ばせるためのいわば餌なのです。アリは食料としてエライオソームを種子ごと持ちかえり、残った種子を捨てます。種子の発芽にはエライオソームがあってもなくても関係ないようです。エライオソームは植物の繁殖、分布域拡大のための戦略なのです。植物はいかに種子を遠くへ広げるかで、種によって多種多様な手段をこうじています。タンポポの綿毛もそうですね。エライオソームを持つ植物は比較的おおく、カタクリ、スミレの仲間、キケマンなどケマンの仲間、キジムシロ、ヤマブキソウ、ツリフネソウ、タケニグサ、フクジュソウなどがあります。機会があったら観察されてみてはいかがですか。ところで、ニリンソウの種子は他の野草と同じように土中で発芽するのでしょうが、どのくらいの期間で花を漬けるようになるかはしりません。来年、家の庭のニリンソウで種子ができたら、播いてみることにします。野生植物の種子は、播けば一斉に発芽するとは限りません。発芽の時期はばらばらなのがふつうです。これも、生き延びるための戦略のひとつで、折角発芽しても、環境等の影響で芽生えが全部死んでしまい、絶滅することにならないようにしているのです。植物によっては、土中で冬の低温の時期を経ないと発芽できないものがあります(質問コーナー質問登録番号0914を参照)。ニリンソウがそうである可能性はあるかもしれません。
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2007-09-22