一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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種子中の脂肪酸組成

質問者:   一般   n-6/n-3<2
登録番号1439   登録日:2007-12-07
古い栄養指導では「動物性より植物性油脂。バ ターよりマーガリン。」と言われていましたが、かなり以前から日本脂質栄養学会 では「動物性・植物性では区分できない。脂肪酸の種類で良し悪しは決まる」と 言われていたことを昨年知りました。

脂肪酸の3大分類による良し悪し。
1.動物も合成できる飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸 
  過剰摂取→肥満→病気 食べ過ぎ注意。
  肉の脂身、バター、オリーブ油、パーム油など。
2.動物は合成できないn-6系多価不飽和脂肪酸 
  一般の植物油以外にも色々な食品に多く含まれ(1日の必要量2g程度は 米・大豆製品・卵等から充足)過剰摂取になり易い。
過剰摂取→色々な病気が増える。
  一般の植物油、マーガリン、マヨネーズ、ポテトチップス、油揚げ麺など。
3.動物は合成できないn-3系多価不飽和脂肪酸
n-6系の害を抑制するが摂取量を増やし難い。欠乏症もあり。
  シソ油、エゴマ油、アマニ油、魚、海藻、葉野菜。
  n-3系は融点が氷点下であり夏野菜よりも冬野菜に多く含まれていること、魚や海藻に多く含まれていることは寒冷に対処していると考えれば納得できます。
日本で普通に使う植物油はダイズ、トウモロコシ、サフラワー、ゴマ、ナタネの種子を搾ったものでn-6系を多く含みます。
オリーブ油やパーム油には一価不飽和脂肪酸が多いことは、果肉を搾っている からなのだろうと想像しています。

質問1.不思議で仕方ないのは、シソ、エゴマ、アマニの3種だけ、どうして種子にn-3系が異常に多いのかということです。
 
リノール酸過剰は有害であることから、高リノール酸型の紅花油やヒマワリ油は10年以上前に市場から姿を消し、高オレイン酸型のものに変化して います。動物実験で調べた油脂の中では、最も長命だったのは、ラードとバター。次がn‐3系。高リノール酸型紅花油は1割程度寿命短縮。高オレイン酸型紅花油は異常な寿命短縮が確認されています。
紅花の2品種間で動物への安全性に違いがあるのが不思議です。

質問2.高オレイン酸型の紅花やヒマワリは遺伝子組み換えで育種改良されていると思って良いでしょうか。
n-6/n-3<2 さま

頂いたご質問について、種子の中で油脂が局在している細胞小器官であるオイルボデイ、これに結合しているタンパク質、オレオシン、について詳しく研究されている、京都大学理学部分子植物科学研究室の島田 貴士 先生に次のような詳しい回答を頂きましたのでご覧下さい。なお、ダイズのオイルボディについて、本質問コーナーの登録番号1445への回答もご覧下さい。

浅田 浩二(JSPPサイエンスアドバイザー)

質問1への回答
植物油では,n-6系多価不飽和脂肪酸としてリノール酸,n-3系多価不飽和脂肪酸としてリノレン酸が挙げられます。リノール酸をリノレン酸に変換する酵素として,ω3-デサチュラーゼがあります.生化学的な視点からご質問にお答えるとすると,シソ、エゴマ、アマニでn-3系 多価不飽和脂肪酸の量が多くなるのは,ω3-デサチュラーゼの酵素活性が高いためと考えられます。
n-3系多価不飽和脂肪酸と温度の関連については多くの研究がなされています.ω3-デサチュラーゼの発現を低下させた形質転換植物体では,n-3系多価不飽和脂肪酸が減少するとともに,高温に耐性を示すことが知られています。一方,低温に対する感受性は,この形質転換植物体と野生型との間に差は見られていません。ご指摘の,『n-3系は融点が氷点下であり夏野菜よりも冬野菜に多く含まれていること、魚や海藻に多く含まれていることは寒冷に対処していると考えられ納得できます』というような,低温に対する適応があるかどうかについては,今のところはっきりしたことはわかっていません。
しかし,種子の油がどのような状態で存在するかによって、寒冷に対する耐性が変化する可能性は十分に考えられると思います。種子の油脂は,オイルボディという細胞小器官に蓄えられています。オイルボディは,果肉,胚乳,胚など,様々な油脂貯蔵器官に存在しています.オイルボディは油の塊であるため,互いに融合しやすい性質をもっています。しかし,胚の細胞では,直径1μm前後の非常に小さなオイルボディが数多く存在しています。胚の細胞内でオイルボディの大きさが小さく保たれているのは,オレオシンという構造タンパク質が存在するからです.オレオシンはオイルボディの膜上に存在し,オイルボディ同士の融合を防ぐ役割があると考えられています。シロイヌナズナを用いたオレオシン欠損変異体の解析から興味深いことがわかっています。オレオシンを欠損した変異体の種子は,種子を凍結処理すると発芽率が顕著に低下します.凍結処理後の変異体の種子では,オイルボディ同士の融合が起こり,巨大化してしまいます。従ってオレオシンは,オイルボディが凍結によって融合・巨大化するのを防ぎ,正常な発芽を助ける役割があると考えられます。
オレオシンのようにオイルボディの性質を変化させることで,種子が寒冷に耐えられるようになる,という例があります。このことから,融点が氷点下以下であるn-3系多価不飽和脂肪酸を増やすことで,種子が凍結に対する耐性を高めているという可能性は十分に考えられます。しかし,アマニは寒冷地域が原産地ですが,シソやエゴマは温暖な地域が原産地であり、関連性に関しては疑問符が残ります。さらなる問題点は,シソ、エゴマ、アマニといった植物が栽培種であることです。というのも,栽培種においては,n-3系多価不飽和脂肪酸が多い品種が人為的に選抜され継代していった可能性が考えられます。つまり,元々の野生種の脂肪酸組成がどうだったのか,栽培種からは判断できないのです。野外において,凍結に対する耐性を高めるためにn-3系多価不飽和脂肪酸を増やしたのかどうかを調べるためには,それぞれの作物の野生種を用いた解析を行う必要があるでしょう。

質問2への回答.
より栄養価の高い作物を作るために,様々な品種改良が行われています。その中で最近よく話題になっている,遺伝子組換えによる品種改良も徐々に認可されつつあります。脂肪酸組成を改良する作物を作る研究も盛んに行われ,実験室レベルでは,遺伝子組換えによって脂肪酸組成を改変した植物が作られています。しかし,遺伝子組換えにより市場に出回る作物に導入されている遺伝子は,ほとんどが除草剤や病虫害に対して抵抗性を持たせるためのものです。現在のところ,ご質問にあるような脂肪酸組成を改良するための遺伝子を含め,食製品の質を変えることを目的とした遺伝子組換え作物は一般市場には出回っていません。育種改良に関しては,むしろ,かけあわせなどの古くから行われている方法で作出された品種がほとんどだと考えられます。
京都大学理学部分子植物科学研究室
島田 貴士
回答日:2012-08-25
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