一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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大豆の油は豆腐や味噌の作製時にどこへいくのですか?

質問者:   一般   はるみ
登録番号1445   登録日:2007-10-20
大豆油は大豆を圧力で搾りだす(一番油)とヘキサンという有機溶剤で抽出する(2番油)などがあるらしいのですが、油の成分が液胞という成分(この質問コーナーで知識を得ました。有難うございました)のなかに封じ込められいるものを搾り出したり、溶剤で抽出することで作るようです。そうすると不思議なことに、水に溶けない油が豆腐を作るときにはどこに行ってしまったのか、どうなるのかという疑問が生じました。味噌でも、味噌汁には油が浮いていません。味噌では醤油と同じように酵母が分解して風味成分に変えてしまったとすればなるほどと思います。しかし、どのような成分に変わったのでしょうか?

話は少しそれますが、豆腐が植物蛋白を固めた濃縮体とすれば、チーズは牛乳中の蛋白を固めた濃縮体と捉えることもできます。チーズの作製時は牛乳中の脂肪成分のバターの元はどこにいくのでしょうか?チーズの中に含まれるのでしょうか?植物生理学の方にお聞きすることではないかもしれませんが、関連がありそうなので、敢えて質問に加えさせて頂きました。
はるみ さま

ダイズのように脂質(油)と蛋白質を貯蔵養分とする種子で、これらの貯蔵養分は細胞内に均一に分布しているのではなく、オイルボデイ、タンパクボデイとよばれる別々の顆粒に分かれて存在しています。すなわち、種子として貯蔵されている間、二つの貯蔵養分は接触できない状態になっています(なぜ、そうなっているのか、考えてみて下さい)。種子が水を吸収して発芽すると、オイルボデイ、タンパクボデイはこわれ、脂質、タンパク質はエネルギー源、炭素源、窒素源となって芽生えを大きくするのに役立っています。

後は植物の生理から離れた食品加工の問題ですが、豆腐の場合について考えて見ましょう。煮た大豆をすりつぶし、ろ過した液を苦汁(にがり)に入れて凝固させたのが豆腐です。まず大豆を煮ることによって、種子の細胞構造がこわれ、オイルボデイ、タンパクボデイもこわれて脂質、タンパク質が相互に接触できるようになります。さらに、タンパク質は熱によって変性します。これは卵の目玉焼きを料理するとき卵の白身が熱によって固まるのと同じ現象(タンパク質の熱変性)です。熱変性によって大豆のタンパク質の立体構造がこわれ、元の未変性の時には立体構造の内側に多く、表面には露出していなかった(隠れていた)、疎水性のアミノ酸残基が表面に露出してきます。一方、(水に溶けない)疎水性である脂質は、タンパク質が変性して表面に露出した、疎水性のアミノ酸残基のところに結合(厳密には会合)しやすくなります。こうしてタンパク質に脂質が結合した状態で、苦汁によって凝固させたものが豆腐ですが、大豆に含まれていた約20%の脂質は全てタンパク質に結合し、遊離の脂質は含まれていません。このように大豆のタンパク質に結合した脂質が豆腐に滑らかさを与えていると思われます。

味噌、醤油への加工に発酵がありますが、最初に大豆を煮るため、このとき大豆の脂質は豆腐の場合と同じようにタンパク質に結合していると思われます。これがその後の発酵の過程で大豆タンパク質が部分的に加水分解されますが、どれくらいが味噌、醤油に残っているかは多くの製品で大きく異なっているでしょう。チーズ加工の際も豆腐の場合と同様、乳の中の脂質とタンパク質が加工の過程で結合していると思われます。これらについての詳細はそれぞれの食品加工の専門書で調べてください。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2007-11-13
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