一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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たまねぎ栽培におけるカルシウム資材の働きについて

質問者:   会社員   のり
登録番号1455   登録日:2007-11-03
 私の住む地域はたまねぎの産地であり、その栽培の中で、近年カルシウム資材の使用が積極的に取り入れる農家の方が多くなっています。しかし、従来カルシウムは、消石灰を中心として酸性土壌のpH矯正の意味合いが強くその使用方法を主に考えておりました。
 しかし、秋播き〜冬定植〜5〜6月収穫の作型の中で、収穫2ヶ月前(約60日前)にカルシウム資材(消石灰ではない)を施用(約40kg/10a)することで糖度が上がったり、品質が良くなると言われています。
 この件について、以前書籍で「たまねぎの生育後半には、窒素成分があまり残りすぎると品質が良くならないので、より吸収率が高いカルシウムをすることで窒素分を抑え、品質が向上する」と書いてあったのを覚えております。
 また、以前よりたまねぎを栽培されている農家の方に聞きますと「以前は収穫1〜2ヶ月位前に消石灰を施用して、玉ジマリ(たまねぎの充実度が高い)がよかったま」との意見も聞いております。近年ではそのような使用事例も少なく、実際行っても、あまり差は無いように感じます。
しかし、カルシウム資材をその時期に施用する効果について、植物生理上どのような作用により効果があるのか、もしくは考えられるのかをあたらめて確認したく思いまして質問させて頂きたいと思います。
 なお、その書籍がかなり古いのもので、探しても見あたらず、ネットでこの件について調べていたとろ、なかなか見つからず、幸いにも、このHPたどり着きましてそれぞれの返答事例を見させて頂く中で一度質問させて頂きたく思った次第ですよろしくお願いします。
のり さん:

日本植物生理学会 みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。

「たまねぎ栽培におけるカルシウム資材の働きについて」のご質問は、お答えすることがたいへん難しいものです。「植物生理学的にカルシウムがどのような働きをしているか」ということと、「農業の現場においてカルシウム剤の施用で得られる効果」との間を埋めるような知識を私たちは持ち合わせていないからです。生物にとってカルシウムはたいへん重要な元素で、植物のばあい不足すると茎頂、根端、腋芽など細胞分裂や細胞成長の盛んな部分が強い影響を受けて植物体全体が正常な発育をすることができなくなったり、芯枯れになったりすることは一般的に見られることです。その理由には、細胞壁、細胞膜の機能が損なわれるためと考えられています。細胞壁にはたくさんのカルシウムがあってはじめて、その形をきちんと保てますし、細胞膜の働きにもカルシウムは大切な元素です。また、近年では、細胞内のカルシウム濃度の調節がいろいろな環境変化に適切に応答するときの信号伝達系を正常に保つことに関わるなど、細胞の正常な働きに不可欠なことがはっきりしています。一方、農業現場でも、タマネギに限ったことではありませんが、カルシウム剤を適時に与えると、作物の生育がよかったり、果実の味が変わったり、収穫後の保蔵性がよくなったりとするなどの経験的知見があるのも確かです。細胞、組織レベルで分かっている働きが、窒素の吸収、転流をはじめ植物全体の統一された働きに影響することは十分考えられることです。しかし、残念ながら、作物に対する「良好な影響、効果」など植物全体の働きを細胞分裂や細胞成長、環境応答におけるカルシウムの働きなどで部分的に説明することも可能かもしれませんが、理解することはできません。どんな仕組みで「観察される高次の効果」が起こるのかについてはほとんど分かっていないのが現状です。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2007-11-13
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