一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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紅葉のタイミング、個体差について

質問者:   その他   珍念
登録番号1462   登録日:2007-11-08
通学途中、毎日歩く道に沿って、最近はとても綺麗なイチョウの黄葉が見られます。
そこで気がついたことなのですが、イチョウによって既に黄色に染まっているものもあれば、まだ青いものもあります。
他にも、ナナカマドなどでも多くが紅葉し、実まで真紅になっている中で、葉が青々としているものを見かけたりもします。

なぜこのように、ほとんど同条件だと思われる中で紅葉のタイミングがずれているのでしょうか。

元々同じ種類ではないのでしょうか。
それとも日長条件が違うのでしょうか。
個体差があるものなのでしょうか。

是非教えていただきたく思います。
珍念 さん:

質問コーナーのご利用有り難うございます。

紅葉の季節となりその美しさのために関心も高く、いろんな疑問、質問があります。
「元々同じ種類」なのに不揃いに紅葉するのはどうしてか?がご質問の主旨だと思います。まず、生物は「元々同じ種類」でも「まったく同じ」になることはない、ということをご理解ください。ヒト、日本人だけをとっても「元々同じ種類」なのに「違い」があるので識別できますね。その違いは個体ごとにある遺伝子DNAのわずかの違いと、環境から各個体が受ける刺激の違いによって起こるものです。植物でも同じです。同じ地域に生えていても個体ごとに環境から受ける刺激は少しずつ違います。
さらに個体の中でも、葉や枝などの各器官が受ける環境刺激は器官の場所によって違います。ナナカマドなどの紅葉はアントシアニンが合成されるためですが、その合成は葉や果実の細胞がある生理状態になって、光にあたることが必要です。強い光のあたった場所の葉には多くの色素が合成されますが、弱い光では少なく、光のあたらない場所には色素はできません。そのため、光のよくあたる場所にある個体や葉はより強く紅葉し、陰になる場所にある個体や葉の紅葉は遅れることになります。一枚の葉ですら、よく光にあたった部分は赤く、上の葉の陰になった部分に緑が残ることも珍しいことではありません。イチョウの黄葉は葉緑素が分解したために黄色いカロテノイドが残ったために起こりますが、葉緑素の分解は細胞の生理的状態に強く影響をうけます。より老化が進んだ葉や強い光を受けた部分では早く葉緑素が分解されて黄葉となりますが、老化が遅れたり、弱い光しか受けない葉では緑が残ることになります。1本の木にあるたくさんの葉の生理齢は同じでなく若い葉、歳とった葉が混在していますし、各葉が受ける環境刺激も少しずつ違います。そのために、個体ごとにも、また個体内でも紅葉が同時に一斉に起こることはなく、不揃いになるのがふつうの姿です。ここでいう環境刺激の主なものは光の強さ、質(朝夕と日中、晴天と曇天では植物が受ける光の質が違います)、温度、水分、風、土壌の質などのことです。
日長条件は、ある地域ではみな同じですので紅葉現象の不揃いには大きな影響はないと思われます。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2007-11-13
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