質問者:
一般
さとみ
登録番号1463
登録日:2007-12-07
前回の質問への回答をいただき、ありがとうございました。なぜミネラルは種子の内側ではなく外側へ分布するのでしょうか?
質問登録番号1456への回答により、ミネラルはアリュロン層に分布していると分かりましたが、「なぜミネラルは外側へ分布しやすいのか?」という疑問が残りました。
植物の種子が、たとえばデンプン質が外側を覆い、ミネラル分の多い箇所を内側にするならば、その逆よりも不利な理由が何かあるのでしょうか。
もしくはミネラルとデンプンの特性により、ミネラルが外側へ、でんぷん質が内側へと「自然に」分かれたのでしょうか。
素人考えではなんとなく「ミネラルは強そう(無機質だし)で、でんぷんはもろそう」だから、ミネラルの層ででんぷんが守られているのかな。というイメージがあるのですが、イマイチ「科学(且つ化学)的」に説明されないと納得がいきません。
どうかもやもやを晴らして下さいませ。
宜しくお願い致します。
さとみ さま
イネの種子は収穫し貯えている間、生きていないように見えますが、適当な条件が与えられれば、発芽して次世代の植物を残すための、生きた細胞から成り立っています。植物は(細胞分裂しない、代謝もしない)死んだ細胞をもっていますが、これはイネの種子では籾殻がこれに相当します。樹木の幹の木部も死んだ細胞ですが、これによって樹木が支えられています。籾殻はこれ以上分裂することもなく、種子が発芽すれば捨て去られる死んだ細胞ですが、岩石の主成分であるケイ酸を多く含み、この硬い細胞からできている籾殻によって、稲穂で種子が稔っている間、さらに種子を貯蔵している間に、虫に食べられないようにするための鎧の役割をしています。大部分の植物の成育のために無機養分として14種の元素が必要ですが、イネはこれ以外にケイ素(ケイ酸)も生育に必要で、これによって硬い細胞をもつことができ、虫害、病害を受けにくくなっています。これがご質問の外側のミネラルが種子を守っている一例といえるでしょう。
しかし、種子は発芽して次世代のイネが独立して光合成でき、土からミネラルを吸収できる葉や根に胚芽を成長させる必要があります。そのため質問1456の回答にある、種子の組織である胚芽、アリュロン層、胚乳の細胞は死んだ細胞ではなく、発芽して芽生えから葉、茎、根に成長させるために、生きた細胞としてそれぞれの役割を果たしています。大まかには、イネ種子が水を吸収すると種子の外側のアリュロン層で、胚乳の養分(デンプン、タンパク質)を水に溶ける糖やアミノ酸に加水分解するための酵素が合成され、この酵素が胚乳の表面に少しずつ作用して、溶けるようになった養分が胚芽に送られ、これを素材として新しい葉や根が成長して光合成ができ、ミネラルを土から吸収できる、植物体に作り変えられます。この間に生ずる数百の反応が順序よく、間違いなく進行することが必要ですが、これらの全ての過程にアリュロン層にある14種のミネラルが必要です。アリュロン層にあるミネラルは、籾殻と異なり胚乳の単なる鎧ではなく、芽生えの成長に絶対必要なミネラル(14種の元素)が量的にも、また、割合の面からも、さらに、化学的にも適当な形で含まれています。例えば、リンは酸(リン酸)としてミオ・イノシトールとエステル結合し(これをフィチン酸とよびます)、このリン酸にカリウム、マグネシウム、カルシウムのカチオンが結合した形でアリュロン層の細胞に貯えられています。イネが実るときに胚乳でデンプンが合成されますが、リン酸があるとデンプン合成が進行しないため、葉などから穂に送られてきたリン酸はデンプン合成の組織である胚乳に入らないように、アリュロン層でフィチン酸の形で貯え、発芽のときに利用できるようにしていると考えられます。
このように種子の外側のアリュロン層にミネラルが集積するのは、単子葉植物の種子では一般的ですが、これは胚乳成分を単に守るだけのためとは考えられません。種子としての役割、すなわち発芽をして次世代を残すことに、最も都合のよいように設計されていると考えられます。イネ種子のアリュロン層に相当する組織を種子の周りでなく中心においた種子を作って、どちらが次世代のイネを残すのに好都合であるかをテストするのは興味ある実験ですが、実行するのは容易ではありません。現在のイネの種子が、少なくとも進化の過程で数億年間(数億回)、試行錯誤を繰り返して現在の構造に落ち着いたと考えるのが、最も妥当でしょう。
イネの種子は収穫し貯えている間、生きていないように見えますが、適当な条件が与えられれば、発芽して次世代の植物を残すための、生きた細胞から成り立っています。植物は(細胞分裂しない、代謝もしない)死んだ細胞をもっていますが、これはイネの種子では籾殻がこれに相当します。樹木の幹の木部も死んだ細胞ですが、これによって樹木が支えられています。籾殻はこれ以上分裂することもなく、種子が発芽すれば捨て去られる死んだ細胞ですが、岩石の主成分であるケイ酸を多く含み、この硬い細胞からできている籾殻によって、稲穂で種子が稔っている間、さらに種子を貯蔵している間に、虫に食べられないようにするための鎧の役割をしています。大部分の植物の成育のために無機養分として14種の元素が必要ですが、イネはこれ以外にケイ素(ケイ酸)も生育に必要で、これによって硬い細胞をもつことができ、虫害、病害を受けにくくなっています。これがご質問の外側のミネラルが種子を守っている一例といえるでしょう。
しかし、種子は発芽して次世代のイネが独立して光合成でき、土からミネラルを吸収できる葉や根に胚芽を成長させる必要があります。そのため質問1456の回答にある、種子の組織である胚芽、アリュロン層、胚乳の細胞は死んだ細胞ではなく、発芽して芽生えから葉、茎、根に成長させるために、生きた細胞としてそれぞれの役割を果たしています。大まかには、イネ種子が水を吸収すると種子の外側のアリュロン層で、胚乳の養分(デンプン、タンパク質)を水に溶ける糖やアミノ酸に加水分解するための酵素が合成され、この酵素が胚乳の表面に少しずつ作用して、溶けるようになった養分が胚芽に送られ、これを素材として新しい葉や根が成長して光合成ができ、ミネラルを土から吸収できる、植物体に作り変えられます。この間に生ずる数百の反応が順序よく、間違いなく進行することが必要ですが、これらの全ての過程にアリュロン層にある14種のミネラルが必要です。アリュロン層にあるミネラルは、籾殻と異なり胚乳の単なる鎧ではなく、芽生えの成長に絶対必要なミネラル(14種の元素)が量的にも、また、割合の面からも、さらに、化学的にも適当な形で含まれています。例えば、リンは酸(リン酸)としてミオ・イノシトールとエステル結合し(これをフィチン酸とよびます)、このリン酸にカリウム、マグネシウム、カルシウムのカチオンが結合した形でアリュロン層の細胞に貯えられています。イネが実るときに胚乳でデンプンが合成されますが、リン酸があるとデンプン合成が進行しないため、葉などから穂に送られてきたリン酸はデンプン合成の組織である胚乳に入らないように、アリュロン層でフィチン酸の形で貯え、発芽のときに利用できるようにしていると考えられます。
このように種子の外側のアリュロン層にミネラルが集積するのは、単子葉植物の種子では一般的ですが、これは胚乳成分を単に守るだけのためとは考えられません。種子としての役割、すなわち発芽をして次世代を残すことに、最も都合のよいように設計されていると考えられます。イネ種子のアリュロン層に相当する組織を種子の周りでなく中心においた種子を作って、どちらが次世代のイネを残すのに好都合であるかをテストするのは興味ある実験ですが、実行するのは容易ではありません。現在のイネの種子が、少なくとも進化の過程で数億年間(数億回)、試行錯誤を繰り返して現在の構造に落ち着いたと考えるのが、最も妥当でしょう。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2007-12-07
浅田 浩二
回答日:2007-12-07