質問者:
一般
origin
登録番号1464
登録日:2007-11-10
私は、植物と動物の共通点に興味があります。比較の中で動物に見られる「消化機能」は必ずしも全ての植物には見られないと思っていました。ところが最近、一般の被子植物にも、消化に類似の機能があるかもしれないと思うようになりました。みんなのひろば
植物にも消化機能はありますか?
Pub-Med等で検索したところ、リン酸欠乏状態のシロイヌナズナの根からクエン酸が分泌され、それによってリン酸吸収が促進されるとか、同じくリン酸欠乏状態のトマトの根から酸性フォスファターゼが分泌され、やはりリン酸の吸収が促進されるといった報告を見つけました。これが本当なら、少なくとも環境からの栄養を摂取するために積極的に何かを分泌しているという意味では、消化に似ていると感じました。
そこで質問させていただきます。
食虫植物は植物の消化機能として有名ですが、シロイヌナズナなど一般の植物には消化機能が無いのでしょうか?
ここでは消化とは、
化学的な意味の消化:酵素や酸・アルカリ等を植物体の表面から外分泌して、周囲の環境中の栄養源(特に、有機物)を分解し、その産物を表面から吸収するという意味でお尋ねします。
ご指導の程よろしくお願いいたします。
origin さま
みんなの広場へのご質問ありがとうございました。頂いたご質問の回答を大阪府立大学の小泉 望先生にお願いいたしましたところ、以下のような丁寧なご回答をお寄せ下さいました。お役に立つものと思います。
小泉先生のご回答
面白い観点からのご質問ですね。すでにご質問の中に答えが出ているように思いますが、改めてご回答させて頂きます。
まず、動物と植物の栄養吸収について考えてみましょう。動物は一般に従属栄養と呼ばれ、有機物を栄養分として摂取します。それを吸収可能な単位まで分解(消化)した後に吸収し、エネルギーとしたり、生命活動に必要な物質を作ったりします。例えば、消化酵素により、タンパク質はアミノ酸に分解され、デンプンは糖に分解されます。吸収された糖やアミノ酸は、エネルギーになったり、タンパク質を合成するのに使われたりします。一方、植物の多くは独立栄養と呼ばれ、無機物から有機物を作ります。例えば、光合成により植物は、空気中の二酸化炭素から、糖、デンプンを合成しますし、土壌中の硝酸イオンを元に、アンモニア、アミノ酸を合成します。従って、植物が有機物を分解することは余りありません。ご質問にもありますように、食虫植物のように、消化酵素を分泌し、有機物を分解して栄養分とする従属栄養をおこなう植物もあります(食虫植物も、基本的には独立栄養で、従属栄養は付加的です)が、非常に特殊なケースだと思います。
このように、植物は食虫植物の例を除けば、動物のように消化酵素を分泌して、他生物由来のタンパク質やデンプンを分解(消化)することはありませんが、環境中から無機栄養素を吸収しやすくするために、酵素や酸を植物の根が分泌することはかなり一般的なようです。植物は、窒素、リン、カリウムなどの無機成分を根から吸収しますが、これらはトランスポーターと呼ばれるタンパク質の働きによります。窒素は例えば硝酸イオンの形態で硝酸トランスポーターにより、リンはリン酸イオンとしてリン酸トランスポーターによって吸収されます。この場合、それぞれの成分は、トランスポーターによって吸収可能な形である必要があります。しかし、土壌中では、例えばリンは無機リン酸ではなく、しばしば有機態リン酸の形で存在しています。このままでは、リン酸トランスポーターは、リンを吸収することができません。そこで、植物の根は、積極的にクエン酸などの有機酸を分泌して、リン酸イオンを生じやすい環境を根圏(土壌中の根の近傍)に作ったり、酸性フォスファターゼ(ホスファターゼ)を分泌して、有機態リン酸から無機リン酸を積極的に生じさせたりするようです。この意味では、ご質問において定義された消化機能を多くの植物が持っていると言えます。
ご質問の定義と少し離れますが、植物が細胞外の有機物を積極的に分解することは良くあります。動物の胃や消化管は、動物の個体の中ではありますが、細胞の中ではありません。植物にも、細胞外(細胞膜で包まれた部分以外)の空間が存在しアポプラストと呼ばれます。アポプラストの構成成分は主として細胞壁と言えます。アポプラストには、細胞壁を構成しているタンパク質や多糖類が存在しています。これらのタンパク質や多糖類は必要に応じてアミノ酸や糖に分解され、植物細胞に吸収されると考えられます。この分解に関わるタンパク質分解酵素やグリコシダーゼは、細胞からアポプラスト空間へ、動物の消化酵素とよく似た分泌機構により分泌されます。これら酵素の働きによって生じたアミノ酸や糖は細胞内へ吸収されると考えられますが、その詳細はまだ良くわかっていません。動物の場合は、他生物が合成した高分子有機物を消化するのに対して、植物は自身が合成した高分子有機物を消化するという違いはありますが、酵素を分泌して、高分子有機物を分解するという点では良く似ているように思います。
小泉 望(大阪府立大学)
みんなの広場へのご質問ありがとうございました。頂いたご質問の回答を大阪府立大学の小泉 望先生にお願いいたしましたところ、以下のような丁寧なご回答をお寄せ下さいました。お役に立つものと思います。
小泉先生のご回答
面白い観点からのご質問ですね。すでにご質問の中に答えが出ているように思いますが、改めてご回答させて頂きます。
まず、動物と植物の栄養吸収について考えてみましょう。動物は一般に従属栄養と呼ばれ、有機物を栄養分として摂取します。それを吸収可能な単位まで分解(消化)した後に吸収し、エネルギーとしたり、生命活動に必要な物質を作ったりします。例えば、消化酵素により、タンパク質はアミノ酸に分解され、デンプンは糖に分解されます。吸収された糖やアミノ酸は、エネルギーになったり、タンパク質を合成するのに使われたりします。一方、植物の多くは独立栄養と呼ばれ、無機物から有機物を作ります。例えば、光合成により植物は、空気中の二酸化炭素から、糖、デンプンを合成しますし、土壌中の硝酸イオンを元に、アンモニア、アミノ酸を合成します。従って、植物が有機物を分解することは余りありません。ご質問にもありますように、食虫植物のように、消化酵素を分泌し、有機物を分解して栄養分とする従属栄養をおこなう植物もあります(食虫植物も、基本的には独立栄養で、従属栄養は付加的です)が、非常に特殊なケースだと思います。
このように、植物は食虫植物の例を除けば、動物のように消化酵素を分泌して、他生物由来のタンパク質やデンプンを分解(消化)することはありませんが、環境中から無機栄養素を吸収しやすくするために、酵素や酸を植物の根が分泌することはかなり一般的なようです。植物は、窒素、リン、カリウムなどの無機成分を根から吸収しますが、これらはトランスポーターと呼ばれるタンパク質の働きによります。窒素は例えば硝酸イオンの形態で硝酸トランスポーターにより、リンはリン酸イオンとしてリン酸トランスポーターによって吸収されます。この場合、それぞれの成分は、トランスポーターによって吸収可能な形である必要があります。しかし、土壌中では、例えばリンは無機リン酸ではなく、しばしば有機態リン酸の形で存在しています。このままでは、リン酸トランスポーターは、リンを吸収することができません。そこで、植物の根は、積極的にクエン酸などの有機酸を分泌して、リン酸イオンを生じやすい環境を根圏(土壌中の根の近傍)に作ったり、酸性フォスファターゼ(ホスファターゼ)を分泌して、有機態リン酸から無機リン酸を積極的に生じさせたりするようです。この意味では、ご質問において定義された消化機能を多くの植物が持っていると言えます。
ご質問の定義と少し離れますが、植物が細胞外の有機物を積極的に分解することは良くあります。動物の胃や消化管は、動物の個体の中ではありますが、細胞の中ではありません。植物にも、細胞外(細胞膜で包まれた部分以外)の空間が存在しアポプラストと呼ばれます。アポプラストの構成成分は主として細胞壁と言えます。アポプラストには、細胞壁を構成しているタンパク質や多糖類が存在しています。これらのタンパク質や多糖類は必要に応じてアミノ酸や糖に分解され、植物細胞に吸収されると考えられます。この分解に関わるタンパク質分解酵素やグリコシダーゼは、細胞からアポプラスト空間へ、動物の消化酵素とよく似た分泌機構により分泌されます。これら酵素の働きによって生じたアミノ酸や糖は細胞内へ吸収されると考えられますが、その詳細はまだ良くわかっていません。動物の場合は、他生物が合成した高分子有機物を消化するのに対して、植物は自身が合成した高分子有機物を消化するという違いはありますが、酵素を分泌して、高分子有機物を分解するという点では良く似ているように思います。
小泉 望(大阪府立大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2007-12-07
柴岡 弘郎
回答日:2007-12-07