質問者:
会社員
1フォレスター
登録番号1468
登録日:2007-11-13
葉の形態形成に関して二つ質問があります。①植物の葉の細胞数は種によって確定しているのでしょうか?②葉の形態形成のいずれの段階で細胞分裂・細胞数の増加がストップするのでしょうか?1個葉の細胞数
以前フェノロジー調査でハクモクレンの観察をしていたとき、冬芽の中には冬季の間早い段階で、すでにその年の春・その枝につく花・葉(その他抵出葉等)が全てそろっているということを知りました。
この記憶から、「幼葉の細胞数はすでに成熟葉と同じで、それが肥大成長してある一定の葉面積までになるのか、それとも成熟葉の葉面積に達するまで細胞分裂をするのか、はたまたある程度細胞分裂した後に個々の細胞の肥大成長が始まるのか」という疑問が頭から離れなくなりました。
既知の事象について質問をしてしまっているかもしれませんが、その際はご容赦の上、コメントをいただけると幸いです。
1フォレスターさん
みんなの広場へのご質問有難うございました。頂いたご質問の回答を葉っぱならこの人以外に考えられないという東京大学の塚谷裕一先生にお願いしましたところ、以下のような詳しいご回答をお寄せ下さいました。しっかり勉強して下さい。
塚谷先生のご回答
ご質問ありがとうございます。冬芽の展開をご覧になっていて疑問を感じたわけですね。
まず最初の質問、葉の細胞数が種によって確定しているのか、という点についてお答えします。 これは確定していません。葉を構成する細胞の総数は、植物の生理状態や環境によって大きく左右されます。私たちがふだん扱っている実験植物・シロイヌナズナの場合、同一遺伝背景を持つものであれば、同一環境で育て、同一の時期に同一の葉位の葉(第1葉とか第5葉とかのような)を調べてみますと、非常に再現性良く、ほぼ同じ細胞数と細胞サイズを示します。しかし光環境や栄養分、水分、温度、こういった条件を変えますと、細胞数はそれに応じて激変します。また同じ条件であっても、第1葉と第5葉とでは、当然ながら細胞のサイズも数も大きく異なります(第1葉より第5葉の方が小さくて多い細胞で構成されます)。葉はその置かれた状況に応じて、かなり可塑的に作られるものとお考え下さい。
次の質問に移りましょう。葉の形態形成のいつの段階で細胞数の増加がストップするか、ということですが、これは状況によってさまざまです。一般には、目に見える大きさになって、全体の形もそれなりに大人の葉に近くなった幼葉でも、細胞分裂はまだ活発に行なわれています。特にいわゆる双子葉類(今はこの分類体系は用いられませんが)の場合は、葉身の基部側での細胞分裂はかなり後期まで続きます。ただ、葉の展開の最終期になりますと、ほぼ細胞分裂は終了していて、むしろ個々の細胞の伸長によって葉が大きくなる状態に移行します。この境目はきっちり分かれてはおらず、葉の先端と基部でも違いますし、表と裏の間の個々の細胞層によっても異なります。
なお今の「一般」とは、朝顔やヒマワリのように、植物が連続的に次々と葉を繰り出しているような状態を想定したお答えです。ご質問のように、いったん冬芽を形成する場合も、実はあまり違いません。冬芽は葉を付けた枝が、形作りの途中でいったん休止をした状態なので、春になって休眠から覚めると、その形態形成を再開します。だいたいの形はできているとはいえ、まだ細胞分裂は終了しておらず、最後の後押しの分裂をしつつ、葉の展開をするわけです。種を蒔いて出てくる双葉(子葉)の場合も、それに似ています。
この点面白いのは、以前調べてみたことのある楠の葉です。楠の葉には、ダニ室といって自分の味方になるダニを飼うシェルターができます。これの形成は、冬芽の間には起きておらず、春になって葉を展開すると共に始まります。その間、葉そのものも細胞分裂を行ないますが、ダニ室の周りでは特にその分裂が活発なので、細胞が盛り上がり、雪のかまくらのような部屋ができあがるというわけです。
というわけで、葉を作る細胞は、展開中にも分裂を繰り返しているとお考え下さい。
塚谷 裕一(東京大学大学院・理学系研究科)
みんなの広場へのご質問有難うございました。頂いたご質問の回答を葉っぱならこの人以外に考えられないという東京大学の塚谷裕一先生にお願いしましたところ、以下のような詳しいご回答をお寄せ下さいました。しっかり勉強して下さい。
塚谷先生のご回答
ご質問ありがとうございます。冬芽の展開をご覧になっていて疑問を感じたわけですね。
まず最初の質問、葉の細胞数が種によって確定しているのか、という点についてお答えします。 これは確定していません。葉を構成する細胞の総数は、植物の生理状態や環境によって大きく左右されます。私たちがふだん扱っている実験植物・シロイヌナズナの場合、同一遺伝背景を持つものであれば、同一環境で育て、同一の時期に同一の葉位の葉(第1葉とか第5葉とかのような)を調べてみますと、非常に再現性良く、ほぼ同じ細胞数と細胞サイズを示します。しかし光環境や栄養分、水分、温度、こういった条件を変えますと、細胞数はそれに応じて激変します。また同じ条件であっても、第1葉と第5葉とでは、当然ながら細胞のサイズも数も大きく異なります(第1葉より第5葉の方が小さくて多い細胞で構成されます)。葉はその置かれた状況に応じて、かなり可塑的に作られるものとお考え下さい。
次の質問に移りましょう。葉の形態形成のいつの段階で細胞数の増加がストップするか、ということですが、これは状況によってさまざまです。一般には、目に見える大きさになって、全体の形もそれなりに大人の葉に近くなった幼葉でも、細胞分裂はまだ活発に行なわれています。特にいわゆる双子葉類(今はこの分類体系は用いられませんが)の場合は、葉身の基部側での細胞分裂はかなり後期まで続きます。ただ、葉の展開の最終期になりますと、ほぼ細胞分裂は終了していて、むしろ個々の細胞の伸長によって葉が大きくなる状態に移行します。この境目はきっちり分かれてはおらず、葉の先端と基部でも違いますし、表と裏の間の個々の細胞層によっても異なります。
なお今の「一般」とは、朝顔やヒマワリのように、植物が連続的に次々と葉を繰り出しているような状態を想定したお答えです。ご質問のように、いったん冬芽を形成する場合も、実はあまり違いません。冬芽は葉を付けた枝が、形作りの途中でいったん休止をした状態なので、春になって休眠から覚めると、その形態形成を再開します。だいたいの形はできているとはいえ、まだ細胞分裂は終了しておらず、最後の後押しの分裂をしつつ、葉の展開をするわけです。種を蒔いて出てくる双葉(子葉)の場合も、それに似ています。
この点面白いのは、以前調べてみたことのある楠の葉です。楠の葉には、ダニ室といって自分の味方になるダニを飼うシェルターができます。これの形成は、冬芽の間には起きておらず、春になって葉を展開すると共に始まります。その間、葉そのものも細胞分裂を行ないますが、ダニ室の周りでは特にその分裂が活発なので、細胞が盛り上がり、雪のかまくらのような部屋ができあがるというわけです。
というわけで、葉を作る細胞は、展開中にも分裂を繰り返しているとお考え下さい。
塚谷 裕一(東京大学大学院・理学系研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2007-12-07
柴岡 弘郎
回答日:2007-12-07