一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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作物の糖度向上とビタミンC向上の相対性について

質問者:   一般   ケン
登録番号1469   登録日:2007-11-15
今年の始め頃に苺を購入する際にバイヤーさんから「甘い苺はビタミンCも豊富だから、沢山食べると風邪をひかないよ」と営業かけられ、「甘いものはビタミンCも一緒に増えてるのですか?」と質問しましたが、「?」で答えはかえってこなかったのを覚えています。そこで・・・作物自体の糖度の高いものはそれに伴いビタミンCの含有率も高くなるという相対性はございますか?
素人的には、ビタミンCと聞きますと酸っぱいというイメージがある為に糖度の向上とは異なる作用にも思ってしまいます。またビタミンCは作物の細胞内にて生産されるとも言われておるようですが、苺のように多分にビタミンCが含有されている作物、また反対に含有度の低い作物の差異は何故おこるのでしょうか?そこには各作物自体の遺伝的な細胞の密度や大きさも兼ねあってくるものなのでしょうか?。
ケン さま

イチゴの果実は他の植物では余り大きくならない(花軸の先端の)花床(花托)が大きくなり、多汁質の細胞もつようになった組織であり、果実の表面に多くの種がついています。イチゴが花を咲かせ、実(種子)をつけるのは次世代のイチゴを残すためであり、果実の成分もこの目的にかなうように設計されています。イチゴに限らず多くの栽培種は、長い間の選抜、育種の過程で人の目的に適う品種が選ばれてきていますが、イチゴは基本的には花床を大きくしてこれに鳥や動物などが好む成分を貯めこみ、また、赤の色素(アントシアニン)を合成し目に付きやすくし、小さな種子をできるだけ広い範囲に動物によって散布してもらえるようにする戦略をとった植物です。動物を誘うために、糖の含量を高くしているのは多くの果実に見られますが、イチゴの成熟した果実のショ糖含量は約8%です。一方、ビタミンC(アスコルビン酸)はショ糖に比べ含量が低く、その含量は糖の百分の一以下です。大部分の果物のアスコルビン酸含量もイチゴと同じ程度であり、緑の野菜と同じレベルの含量です。

イチゴの果実に含まれていたショ糖は最終的に動物の体内で呼吸によって酸化され、ミトコンドリアでATPを合成し、動物のエネルギー源となります。一方、アスコルビン酸は動物の細胞内でビタミンの一つとして、細胞に対し障害作用をもつ活性酸素を消去するなど多くの生理作用を持っていますが、エネルギー源としてはその含量が低いこともあって糖に比べれば無視できます。アスコルビン酸が植物で、葉など緑の組織に多く含まれているのは、光合成が進行する葉緑体で、太陽光によって活性酸素が多量に生じ、これを速やかに消去するのにアスコルビン酸が必要なためです。もし、活性酸素をすばやく消去できなければ光合成はたちまち停止してしまいます。そのため、植物は、特に緑の組織で、アスコルビン酸を多量に合成しています。イチゴの果実も若い間は緑色で光合成をしていますが、このためにアスコルビン酸を合成していると思われます。果実が赤くなると葉緑体はなくなり、光合成も進行しなくなりますが、その後、果実の細胞が活性酸素などによって傷害を受けないようにするため、アスコルビン酸を残していると思われます。

このように、糖とアスコルビン酸はイチゴの果実の中でも、また。ヒトを含め動物の体の中でも、全く異なった働きをしている成分です。これらの成分は、一部はイチゴの果実自身の光合成産物、そして、残りは葉の光合成産物から合成されます。糖とアスコルビン酸が光合成産物からどれだけの割合で合成されるかは、イチゴの栽培環境によって大きく変動します。一般に植物にとってストレスとなる環境条件(強すぎる太陽光、水ストレスなど)では活性酸素が発生しやすいため、それによる傷害を防ぐためアスコルビン酸が合成される割合が高くなります。イチゴの場合、ご質問のバイヤーさんの、糖とアスコルビン酸の含量が比例するかどうかは、恐らく栽培条件によって大きく変動するため、データーがない限り、断定できないよう思います。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2007-12-07
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