一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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アレロパシー物質の調べ方と抽出方法について

質問者:   高校生   バイオ研究会
登録番号1478   登録日:2007-11-21
急な質問ですみません。私たちはバイオ研究会という農業高校の部活動で環境保全型農業についての研究活動を続け、地域と連携して普及と推進を行ってきました。これまでも農薬や化学肥料に頼らない安全で安心な食料生産と環境に配慮した栽培を目指して研究に取り組んできましたが、雑草抑制や害虫防除などの栽培管理技術の確立の面で行き詰まってしまいました。そんな中、多感物質や抵抗性物質の存在を知り、自分たちでもこのような物質を栽培に利用できないかと考えています。できれば、そのような物質を自然界の中から探して、抽出し、実際の農業生産に利用していきたいと考えています。これまでもインターネットや本で調べてきましたが、具体的な方法がわかりませんでした。今後、この内容について研究を行っていきたいと思っていますので、方法を教えてください。お世話になります。

↓学校HPです。
http://www.higo.ed.jp/sh/kamotono/
バイオ研究会 様

質問コーナーのご利用有り難うございます。
お答えすることが大変難しいご質問で、ご満足のいくような回答にはならないと思いますが、課題の現状を簡単の記すことにします。ご質問の内容は重要なことで世界の植物バイオテクノロジー研究機関、企業が必死になって取り組んでいる課題でもあります。アレロパシー(他感作用)については膨大な研究があり、その原因となっている(とされている)物質はとてもたくさんあります。おそらくすでに調べておられるかもしれませんが、アレロパシー物質とはある植物が排出した物質が環境を介して他の植物に「何らかの生理的影響」をもたらす物質とされています。そのほとんどは、根から土壌中に排出されて他の植物に影響をもたらしますが、エチレンやある種のテルペン類のように大気中に放出されて近隣の植物に影響を及ぼす物質もあります。アレロパシー物質とされる物質は、自種を含め植物の生育(種子発芽を含みます)を阻害する物質、自種には阻害活性を示さない(弱い)が他種植物の生育を阻害する物質などですから、作物栽培における雑草防除などに利用するとすれば対象作物には特異的に効果の低い生育阻害物質でなければなりません。そのような阻害物質を求めてたくさんの研究がありますが、特異性、効力などの点で満足いくものは見つかっていません。この辺の事情は、アメリカのエルロイ・ライスの著書「アレロパシー」:八巻敏雄他訳、学会出版センター1991にかなり詳しく記載されており参考になると思います。
次に「抵抗物質」ですが、おそらく「病原体に対する抵抗物質」のことを言っておられるものと思います。合成化学薬品を除くと微生物の生産物(抗生物質)がいくつか利用されています(ブラストサイジンS、カスガマイシン、バリダマイシンなど)。
散布、土壌処理など外から与えて効果を期待するとなるとどうしても低分子化合物ですが、天然物にこれを求めるのは困難で必然的に化学合成に頼る合成農薬(殺虫、殺菌物質)が中心となっています。合成農薬の問題点を回避する方法として「作物に抵抗物質を作らせる」ことが盛んに試みられています。「作物に抵抗物質を作らせる」とき抵抗物質が低分子物質ではたいへん困難な技術的問題が起こります。低分子物質を合成する生化学反応がすべて分かっていなければなりませんし、その生化学反応を進める酵素をすべて作物に作らせなければなりません。そこで、考えられたのが「抗菌性タンパク質」を利用する方法です。抗菌性タンパク質が分かれば、その遺伝子を作物に導入してやれば作物内に抗菌性タンパク質ができ、その作物は病害抵抗性を示すことになります。いわゆる遺伝子組み換え作物となります。実用化されているものとしてBtトキシンというある細菌が作る殺虫作用のあるタンパク質遺伝子を利用したもので、害虫に抵抗性を示す実用作物が作出されています。その他のほとんどは研究段階で、たくさんの生物材料に抗菌性タンパク質を求め、そのタンパク質の遺伝子取りが精力的に行われています。さらに、作物が病原菌に感染すると作物自体が抵抗反応を示すようになります。この抵抗反応の1つとして抗菌性タンパク質を作ることが知られています。一般にディフェンシンと呼ばれているタンパク質です。かつての抗生物質探索プロジェクトのような抗菌性タンパク質探索プロジェクトを大規模で行えばかなり有効なタンパク質やペプチドが発見されるでしょう。しかし、これらを利用する方法は遺伝子組み換えによるものですから、いろいろな問題が提起されており解決にはなお時間のかかる課題です。
最後に、自然界からこのような物質の探し方、抽出方法、生産への利用法が具体的なご質問ですが、一般的な方法はありません。どのような「抵抗性」を求めるかによって「探し方」が違いますし、目的物質が低分子か高分子かによって抽出法も精製法も利用法も異なります。これらは研究者がそれぞれ独自に工夫しながら方法を開発していくものだ、ということをご理解ください。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2007-12-07
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