一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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CAM型光合成を行なうパフィオペディルムの種類を教えて下さい

質問者:   会社員   さーしらん
登録番号1479   登録日:2007-11-25
趣味で色々なランを栽培しており、ランはCAM型の光合成を行なうと聞かされておりましたが、実際にはランの仲間にはCAM型光合成を行なう種類とC3型光合成を行なう種類があり、カトレア等着生種ではCAM型と理解しています。

パフィオペディルムの場合はC3型の光合成を行なう品種とCAM型光合成を行なう品種があるようですが、葉の厚み等外観のみではその判別ができません。

そこで、外観より判別する方法があるのか又は自生環境(地生、岩生等)により判別ができるのか判別方法があれば又教えて下さい。
できれば、品種毎にそれぞれの光合成形態を教えて頂きたくお願い致します。

フラグミペディウムについても同様のご教授をお願い致します。
さーしらん さま

頂いたご質問について、ランの栽培、光合成などについて詳細な研究を続けておられる、京都大学農学研究科・付属農場の片岡 圭子 先生にお尋ねいたしましたところ、次のような詳しい回答を頂きましたので、ご覧下さい。なお、コチョウランについて本質問コーナーの登録番号0908の回答にもCAM, C3のことが述べられていますのでご覧下さい。

浅田 浩二(JSPPサイエンスアドバイザー)

ご質問頂いたパフィオペデイルムの品種ごとに光合成型を比較するような実験は寡聞にして聞いたことがありません。(園芸上の必要はあまりないので)恐らく誰もしていないのではないかと思います。

そこで、いくつか論文を当たってみましたが、品種というより種のレベルでも知見が一致しないようで、どちらかと言えばC3で、恐らく、生育環境によってC3とCAMをスイッチするタイプではないかと思います。コチョウランでも培養環境などによって、若いうちはCAMが現れずC3光合成を示すようですから、乾燥しない環境ではじめから育てたパフィオはC3光合成を行っているケースが多いのでないかと推定されます。なお、フラグミペディウムについてはデータを見つけられませんでしたが、栽培環境から考えて(鉢底を水につけて栽培することもあります)CAMである必然性はないと思われます。

ご質問のお答えではありませんが、パフィオもフラグミも成長の非常に遅いランで、CAMであるかC3であるかということで栽培管理上、変えるべき点はあまりないように思われます。C3であっても、イネのような強い光に耐えられる訳ではありませんので、温室内で炭酸ガス濃度が限界以下になってしまい適切な時期に炭酸ガス施肥をすることが必要になるということも考えにくいと思います。

パフィオに関しては、例えば、「Carbon Fixation by Paphiopedilum insigne and Paphiopedilum parishii (Orchidaceae). Annals of Botany, 54, 583-586 (1984) by Robert D Donovan, Joseph Arditti and Irwin P Ting]によると、地生ランであるP.insigine、比較的多肉葉の着生ランであるP.parishiiも、充分に水を与え育てると、どちらもC3型の光合成が観察されています。また、この論文で1976年、Rubensteinらによる品種, Mildred Humter, がCAMであるという報告に触れていますが、他の論文では、P. vdlosumでも P. venustumでも酸の集積が起こらず、C3であろうとしています。

別の論文「Accumulation of carbon compounds in the epidermis of five species with either different photosynthetic systems or stomatal structure. Plant, Cell and Environment (1980) 3, 451-460. by Nicolette Thorpe」では、P.venustrumをテストしていますが、C3型の光合成をしていると報告しています。以上、はっきりした回答になりませんが、ご参考になれば幸いです。

蛇足ですが、葉の外観からC3, CAMを区別する方法はありません。しかし、葉のpHの日変化を追うことで、どちらであるかを実験的に判別できると思います。Phalaenopsis では、1平方センチのリーフディスクを2〜3mlの水に入れ、電子レンジにかけた後粉砕し、15 mlにフィルアップした液のpHとリンゴ酸の含量との間に負の相関関係があり(r2 = 0.93), 暗期終わりにpH 4〜4.5、明期終わりにpH 5.5〜6になることが報告されています(Scientia Horticulturae, 71 (1997) 251-255. S. Kubota et al.)。
京都大学農学研究科・付属農場・植物生産管理学
片岡 圭子
回答日:2012-08-25