一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物培養細胞について

質問者:   会社員   田村
登録番号0148   登録日:2004-10-13
植物の培養細胞としてニンジン培養細胞(Daucus carota)やタバコ培養細胞(BY-2)がよく知られていますが、これらの培養細胞は完全な植物体に再生できるのでしょうか。
また、遺伝子組換え植物を作ることができるのでしょうか。
前記の培養細胞と完全な植物体とでは同じ機能を持っていると考えていいのでしょうか。
もし、生理学的な相違点があれば教えてください。

培養細胞の場合は、限られた条件下で培地やホルモンを添加しているので、生育中の代謝機能(光合成など)が大きく異なっているのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

どうか宜しくお願いいたします。
田村さま

 タバコ培養細胞のBY-2株から植物体への再生はできないと言われています。
BY-2は均質で増殖率の高い細胞株として有名ですが、この均質さが再生能力の欠損と密接に関係しているようです。均質さの一因は、細胞間の接着が弱く、大きな細胞集塊をつくらないことにありますが、最近の研究で細胞間接着が弱いとうまく器官を再生できないことがはっきりしてきています(筑波大・佐藤忍先生のグループの研究など)。タバコのBY-2に限らず、さらさらした均質な懸濁培養細胞株では、一般に器官再生能力が認められません。
同じ植物から得た培養細胞でも株によって結構性質が違っていたりします。その原因の少なくとも一部は、培養過程で起きる遺伝的変異によると考えられています。ある目的を持って培養細胞の選抜を続ければ、特定の性質を色濃く持った培養細胞株を樹立できます。BY-2はタバコ培養細胞の典型ではなく、特殊な一種の変異細胞株であることにご注意下さい。
ニンジンの培養細胞は、不定胚の研究で知られるように、完全な植物体を再生できます。ただ、これも培養細胞株に大きく依存します。不定胚を高い頻度で形成する細胞株は、顕微鏡で観察すると非常に不均一で、大小様々な細胞塊をつくっています。
培養細胞に遺伝子を導入し植物体を再生すれば、遺伝子組換え植物が得られます。BY-2にも遺伝子を導入して、遺伝子組換え細胞株にすることはできますが、植物体に再生しないので、BY-2から遺伝子組換えタバコをつくるのは無理ということになります。逆に植物体に再生しやすい培養細胞でも、遺伝子の導入が困難で、遺伝子組換え植物をつくる材料にならない場合も多々あります。ニンジン培養細胞では、タバコなどに比べると、この遺伝子導入の段階が難しいと聞きます。
培養細胞と完全な植物体では代謝機能の違いが大きいのでは、とのご質問ですが、まさに仰るとおりです。どのような環境下にある植物体のどの部分と培養細胞を比べるかでも話は変わってきますが、大雑把に言っても、植物ホルモン、培地中の栄養分(高濃度の糖や窒素など)、光条件などのほか、振とう培養では物理的なストレスも代謝に直接影響します。植物ホルモンは細胞の増殖や分化の状態を変えることで間接的にも代謝を大きく変化させます。
東京大学
 杉山 宗隆
回答日:2008-07-10
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